第61話

文字数 518文字

まだ妹が独立していて、甥の存在すらない頃。ようやく仕事がうまくいき始め、親孝行にと選んだ旅行先がここだった。

思い切って遠くに母を連れて行ってあげたかったのに、電車に揺られて2時間弱で着くこの場所を選んだのは、母が遠い昔、まだ幼い子供の頃に数えるほどしかない家族旅行で来たことがあって、もう一度行けたらいいなあと思っていた場所だったかららしい。

こっちは海外くらい行こうと企んでいて、母のために忙しい合間をぬってパスポートの申請書類とか取りよせていたのに結局使わずじまいで終わったのを覚えている。

若干不貞腐れた気分を隠し、あの宿を初めて利用し、どこかオススメはないかと女将に聞いてこの場所へとやってきた。

その時になって、自分の子供じみた考えを恥ずかしく思って反省した。
なぜなら、色々と厳しい母があの岬の先で少女のようにはしゃいでいたからだ。
そんな顔が見れるならと、ここには何がなんでも年に1回は来ようと思ったものだ。

そんなのが、10年近く前のことだと思うと月日がすぎるのはあっという間なのだと痛感する。

そういえばその小旅行に、妹と甥が加わったあとで4人でこの岬の先まで来たのは多分たった1回だけだ。
ああ、ここでも私はやらかしていているのか。

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