第54話

文字数 355文字

泣きそうな顔だ、我慢していることがわかった。
今頃、やっと。

妹と二人だけのときも。
4人になってからも。
そしてついさっきまで。

帰り、何を発すればいいかわからなかった。
私にも時間が必要だった。このあといつか、一人になってしまう彼のことを考える時間。

奥さんはただただ運転して家まで届けてくれた。

家について、奥さんもいるというのに甥を抱きしめて思わず泣いてしまった。
奥さんもそばで泣いていた。

久しぶりに、甥が声を上げて泣いていた。
この子の泣き声なんて私は何年ぶりに聞いたのだろうか。

ずっと妹を小馬鹿にしていた。
家庭なんて持てないって。

しっかりとしたいい子に育っていた。妹が残した最高傑作。
いろんなことが欠けていた三人が育てた、誰にも似なかった原石。
私がだめにしてしまうところだった。

小馬鹿にされるべきは、甥じゃなく私だ。

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