第63話

文字数 1,057文字

そんな母が亡くなり、この場所には母が亡くなってすぐに1回だけ来た。
同じ三人でも今度は私と妹と甥。

あの時は妹が機転を利かせて、花の代わりに甥にシャボン玉を飛ばさせていたっけ。
キラキラと輝く様はまぶたを閉じれば今も思い出せる。

遠くに飛んでいくシャボン玉に甥がバイバイと言っているのを眺め、私が不意に涙ぐんだことをきっと妹は知らない。

そんな追悼にさえ、私は相変わらず仕事を携えて参加していたからだ。出発前から不機嫌で、この場所でも目も合わせようとしてくれなかったから。

それを機に、宿へ三人で来ても私抜きで二人でここへと妹は足を運んでいた。

二人共あんなに早く逝ってしまうと分かっていたら、あと何回かは一緒について来てたかもしれないが、きっとこんなに変わらない景色を見ても、花よりダンゴ派の私はグダグダと文句を垂れ流していたかと思うし、それに対して情緒がないと窘められていただろうから、結果行かなくて正解だったのかとも思ってみたり。

今日もシャボン玉を飛ばしている。そんな姿を一生懸命バイトが写真に収めてくれていた。
「ママと三人で来たこと、覚えている?」
そう聞くと、うんと頷く。

今日も道を忘れたと嘘を言ったら、連れていくと言ってここまで案内してくれた。
逞しくなったが、後ろ姿はまだまだ小さい。

これからもっと成長していくだろう姿を妹はもう見ることが出来ない。
私は、彼が一人でもしっかり生きてける、その全ては無理でもせめて最低限の踏み台くらいは残った時間で作らなければと、改めて思いながら涙をこらえるのに必死だった。

このちょっとした高台にはベンチもあり、しかも遠くまで海を見渡せる。静かなこの場所であの話を持ち出すタイミングをみていたのに、本当はなんだかんだと脆いのだ。

一通りのことをして落ち着いてきたので、バイトには少し離れてもらい、近くにあったベンチに甥と二人で座った。なんとなくベンチも一人分開けて座った。

甥と向き合って話をする。
家では学校の楽しいことは話せても、どうして暴れたのかなかなか答えが出てこなかった。

母や妹だったら彼の苦しみから開放できるのだろうかと思い悩んだ。私じゃ妹にも母にもなれないのだ。
私だからできる最善。だからここで改めて話を聞こうと思ったのだ。

諭すこともせず、叱ることもせず。促して聞くだけ。ただ質問して聞く。ただそれだけ。
聞くこともなくなり最後に、
「学校に行きたくないなら行かなくてもいい。」
と言ってみた。

すると急に泣き出した。急すぎて、どう扱っていいのかわからなくなって、抱きしめるしかなかった。

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