第59話

文字数 619文字

そんなことを知ってか知らずか、女将が見兼ねたかのように近所の子供たちが集まるところへと連れて行ってくれた。

近い年齢の女将の孫もいるそうで、気兼ねしなくていいと行ってくれたので甘えた。
彼女は社長夫妻以外で気の許せる数少ない他人なのだ。

私がいついなくなるかわからない未来、ここには少なくとも過去に笑っていた母も妹もいる。

そして、きっと懐かしんでくれる友達も増えている。

ふるさとのない私のかわりになる、故郷のような場所にするために限りあるうちは、ここにだけは何とか通おうと思っている。

前回連れてきたときはまだ小さくて禁止していたのだが、初めて釣りをしたそうだ。
田舎の子と遊ぶ機会がないので、一生懸命に知らない遊びをしている姿を、バイトが写真に収めてくれる。

少しだけ、子供らしいイイ笑顔が戻ってきてホッとした。
退屈させなくて良かったと同時に、この子の成長をもう母にも妹にも見せられないのだと思うと一気に責任を感じる。

ここまできて、なんだか神様という存在はなんの力もなくて、年齢順というのも無意味で不摂生してきた自分と同列にくだらない存在や意義なのだと痛感し、おかしくて笑いだしていた。

甥が心配そうに顔を覗き込んできたから、甥の勇姿が嬉しかったんだと伝えた。その晩、珍しく私の布団に潜り込んで甥は眠っていた。
その布団の温かさはしばらく忘れられないだろう。

そんな周りの協力もあり、何とか仕事も片付けられ、3日後ようやく二人で出かけられる時間が出来た。
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