運命のとき⑹

文字数 690文字

……ん……、いたた…………。
 気づけば、草むらにいた。

 道路から転げ落ちたのか、私は海の腕の中で、しっかりと抱きしめられていた。




 ……生き……てる。



……んん…………。
海? 海、しっかりして……!
……気を失ってるだけさ。それにしても、おまえって、つくづく()()()()奴だな。
な、名無しさん! ……え、もしかして、私、死んだ……の? また魂が抜けだしちゃった、とか……。
クククッ! 自分の目で確かめるんだな。
どういう、意味?
ワンワンワンワンッ!
 上から、チョコが吠え続けているのが響く。


 そういえば、さっきパパに名前を呼ばれた……。


まさか……!


 ちがう、ちがう、ちがう……!



 そんなの嫌っ!



 すり傷だらけの体で、夢中で土手を駆け上がった。


ワンワンワンワンッ!


 前にも見た、この光景を────。



 あたり一面は血の海と化していた。


……そんな、そんな、……パ……パ……。
ワンワンワンワンッ!
……は……つ………。
 かすかに、私を呼ぶ声を聞きとった。

 ガクガクと弱々しく、私に向けられた手を、私はぎゅっと力強く握りしめた。

……パ、パパ……ッ!
……よか……た、無事で……。
……パパ、ごめんね。
……なぜ……謝るんだい……。か、顔を……。
え?
……ママの……若い頃に……そっくり……だ……。
……パパ。
 いつから、私だって気づいてたの?
……クーン……。
……チョコ、初樹とママのこと、頼んだ……ぞ……。
パパ、もうしゃべっちゃダメ……。きゅ、救急車…………っ!
……ありがとう。
え?
成長した……君に会えて、よか……た…………。
パパ? パパ? ダメ、お願い……、目を開けて……っ!!
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登場人物紹介

美濃初樹

カイ

死神

ミナミさん

沙織

十一歳の初樹

沙織

【現在】

西園寺晶

初樹のお母さん

初樹のお父さん

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