新たな人生⑶

文字数 846文字

いい天気だな。確か、これくらい気持ちいい日差しの春だったかな。おまえと出会ったのは、なあ()()
ほら行くぞ、チョコ。
ワン。



 6年前の春。

 学校を抜け出し、生い茂った草むらの中でぼうっとしてたら、いつの間にか寝入ってしまった。

……うわっ、なんかくすぐってー!!』
ワン♡
『……なんか、ぽっぺ……ぬめってる……』
 気持ちよく眠っていたら、急にくすぐったくなって目を覚ますと、見知らぬ犬にほっぺを舐められまくっていた。
『ごめんなさい、お兄ちゃん。もうチョコったら、ダメでしょ!』
 チョコの()()飼い主────、名前は確か“初樹ちゃん”
『チョコってね、私とパパ以外になつかないの。なんでだか、わかんないけど。お兄ちゃんはチョコに気に入られたんだね』
『へえー、そうなんだ』
 それ以来、初樹ちゃんとチョコには会うようになった。


 あの事故までは……。


『……ごめんなさいね。毎日、お見舞いに来てくれてるのに、初樹、あなたのこと全く覚えてないみたいなの』
『そう、ですか』
『海くん、チョコのことなんだけど……』
『はい、うちで預からせてもらってますけど』
『初樹から聞いてると思うけど、チョコは私には全くなついてなくて……。この先、私がチョコのお世話するのは無理だろうし、初樹はパパっ子だったから、チョコを見ればきっと亡くなった主人を思い出すと思うの。無理を承知でお願いしたいのだけど、このままチョコを引き取ってもらえないかしら?』
『別に構いませんが、本当にいいんですか?』
『あの土手はチョコのお気に入りの場所なの。初樹がもう行けないっていうから……』
『わかりました』
『お兄ちゃん、ありがとう。ママから聞いたよ、お兄ちゃんがチョコの新しい飼い主さんだって』
『会いたいときは、いつでも言って。そのときはいっしょに散歩しに行こう』
『うん、そうだね。よかった、お兄ちゃんみたいな優しい人が、チョコの飼い主さんになってくれて』
 連絡を待っていたのに、あの子はまだ心の整理がついてないんだろうか。


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登場人物紹介

美濃初樹

カイ

死神

ミナミさん

沙織

十一歳の初樹

沙織

【現在】

西園寺晶

初樹のお母さん

初樹のお父さん

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