魔の手⑵

文字数 947文字

へえ、ここがカイのお気に入りの場所なんだ。
うん。ここから、いつも下を見下ろしてる。
いい場所だね。
ああ。

えーと、

私みたいにこの世に未練のある霊や、自分が死んだことに気づかない霊のことは“浮遊霊”で────、

“地縛霊”はそれプラス、

自分の死んだ場所から離れられない霊のこと。行動範囲にも(しば)りがあって、自分の死んだ場所から1キロ圏内しか動けないんだ。

なんか、不便ね。
もう慣れたけどね。それにしても、俺らって不思議な縁だな。
え?
だって、死んだ場所も、死んだ日も同じだなんだぜ。ま、あの大通りは事故が多いからな、俺の友達もあそこで死んだってヤツけっこういるんだ。
そうなの? じゃ今度、カイのお友達紹介してね。
え……、嫌じゃなかったの? 俺の友達、地縛霊だぜ?
なんか、カイといたら、別にそういうの気にしなくなってきたというかなんというか……。
そっか、わかった。
うん!
……それにしても、おまえツイてないよな。死神の()()()にかかるなんてさ。


 え?

 

死神の、魔の手? それ、どういう意味?
へ?
だから、死神の“魔の手”って!?
 私はグイッと、カイの胸ぐらをつかむ。
く、苦し……ぃ……。
ちゃんと説明してくれるまで放してあげないからっ!
わかってたんじゃないのか?

おまえ、あの猫追いかけて死んだんだろ? 死神は、冥府(めいふ)へと導いてくれる役目もあるけど、一般的に死神っていったら、人を死に誘うものじゃん!

死に……誘う?
そうよ、なんで気づかなかったんだろう……!
ハツキ、だいじょ……。
大丈夫じゃないわよ!
…………。
冗談じゃないわよっ! そんなんで死んでられるかってのっ! なんでこんな大事なこと、もっと早く言ってくれなかったのっ!?
いや、気づいてるかと……。
まさか、グル? あの猫の手下(てした)
ち、ちが……、俺は見てただけっ! 今日は朝からずっと、あの横断歩道の脇にいたんだ。俺は“追いかけるな”って言ったんだぜ! でも……!
わかるわけないじゃない!
そ、そうなんだけどさぁ。ほら、たまに霊感の強い奴とかいるじゃん。そういう奴には見えてるみたいだからさ、俺なりにアピールしたんだけど……!
ああー、もうーっ!


 あんの名無し野郎ぉ────っ!


 文句があるから出てこ────いっ‼



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

美濃初樹

カイ

死神

ミナミさん

沙織

十一歳の初樹

沙織

【現在】

西園寺晶

初樹のお母さん

初樹のお父さん

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色