パパとの時間⑶
文字数 890文字
“奥さんとの馴れ初めを聞かせてほしい”だなんて、おかしなことを聞く子だと思ったに違いない。
パパとママの馴れ初めを────。
ママから?
何十年も昔のことだから、思い出すのも恥ずかしいな。そうだな、どこから話そうか……。もともと彼女とは同じ小学校でね、卒業と同時に僕は父親の仕事の関係で引っ越したんだ。彼女とは別に連絡をとっていたわけでもなく、高校を卒業してしばらく経った頃だった。たまたま乗った電車の中で、彼女と再会したんだ。
もしも、運命を変えることができたなら…………!
《……バ、ババババカッ! なに勝手なこと言ってんだ!》
突然、頭の中で怒鳴り声が響く。
……名無しさんっ!
……名無しさんっ!
もしかして、近くにいるの?
《安心しろ、まだあのガキに印はつけてない》
そっか、よかった……って言うとでも思った?
《単純だな。おまえの考えていることはわかっている。父親の未来を変えようとしてるんだろ? 地縛霊の不慮の死とはちがう。死神がかかわっている死は、そう簡単には変えられないんだぜ》
それって、パパは死ぬってこと!?
《さあ》
さあって、なに?
《クククッ。余計なことを考えるな。おまえは残された時間を過ごせばいいだけさ》
……残された、時間?
《そう、残された時間を、大好きなパパと楽しく……ね……》
名無しさんの声が遠のいていく。
“残された時間”って、 いったい、なんのことなの!?
“残された時間”って、 いったい、なんのことなの!?
ねえ!?
ブォ────ンッ!