運命のとき⑴

文字数 789文字

はい、これ忘れ物。
ありが────……、見たの、学生証……?
おまえが何者なのかってことも、もうわかってる。
そっか。

あのね、海。今だから言える話なんだけど、あの頃の私は、海に淡い恋心を抱いてたみたい。ちなみに私は、海でもカイのほうが好きです。

…………。
遠回しに言わないで、のこと好きなら好きって言えばいいじゃん。
だから、海でも()()のほうなんだって! 海じゃないから。
全然、意味わかんねー! 早く帰れよっ。
帰りたくても、帰れないんだから仕方ないでしょっ!
……帰れないって?
それは……。
初樹、そろそろ帰ろう。
まって。あともう少しでチョコの(かんむり)ができるの!
 確か、夢で見た記憶には、猫を見た途端、導かれるようにして道路に飛び出した────!


 はっちゃんは、まだ猫を見つけてないみたい。


それは、なんて言ったらいいのか……。
 まって、どういうこと!?


 パパのそばにいるチョコと、はっちゃんのそばにいるチョコ。


チョコが2匹いるっ!!
え?
 どっちが本物!?


 パパもはっちゃんも気づいてないの!?

グルルルル……!
どうしたんだ、チョコ。誰を威嚇(いかく)してるんだ?
 パパのそばにいるチョコが本物なんだ!
《……クッ! これだから犬っていう生き物は嫌いなんだよ》
 名無しさんの声が頭の中に流れ込む。

 すると、11歳の私のそばで花の冠をかぶっているチョコの顔が、徐々に名無しさんの顔に変化していく。


 チョコにはわかるんだ!


初樹、どうした?
ごめん、海……!
 はっちゃんに知らせなきゃ!


 その犬はチョコじゃないって!

はっ────……!
あっ! チョコ、まってよっ!!
 チョコに化けた名無しさんが突然かけだした。
え、初樹? チョコならここに────……。
 もし、このまま道路へ飛び出したら────っ!!
ダメ、まって! 違う……、違う違う、追いかけないでっ!
追うなって、初樹……。
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登場人物紹介

美濃初樹

カイ

死神

ミナミさん

沙織

十一歳の初樹

沙織

【現在】

西園寺晶

初樹のお母さん

初樹のお父さん

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