記憶を取り戻すために⑶

文字数 811文字

《そうカリカリすんなよ。……そうか。おまえは、オレを追いかけない道を選ぶんだな》
当たり前でしょっ。このままだと、また死んじゃうじゃない!
《クククッ。無難な道だ、それもいいだろう。おまえには、これまでどおりの生活がまっている。そして、伝えるがいい。“ママ、幸せになって”とな》
ええ、ええっ! 言われなくても、そうするわ!
《よし、“無難な道”を選ぶ。それがおまえの出した答えだな?》
しつこいわね、何度も言わせないでよ! さっきから、そう言ってるでしょ!
《ふん。選択権をやると言ったろ?》
だって、あなたを追いかけたら、私また死んじゃうじゃない。
《クククッ。それじゃさっきの繰り返しで、つまらないじゃないか》
……じゃ、私にどうしろっていうの?
《そうだな、せっかくのチャンスだ。遠回りしていかないか?》
遠回り?
《いや、無理にとは言わない。おまえ、5年前のこと、気になってたじゃないか》
そうだけど……。
《あの日のこと、覚えてないんだろ? オレなら、おまえを5年前につれていってやれるぜ》
5年前に?
《ああ、そうだ。一度は死んだんだ。怖いことなんてもうないんだろ? クククッ。なにも難しく考えることはないさ、そうだな……、寄り道とでも思えばいい。ま、おまえは“無難な道”を選択したんだ。早く大切な人のところへ行くがいい》
あ……、まって!
本当はすぐにでもママのところに行きたいけど……。
《行きたいけど?》
せっかくのチャンスだし、少しだけなら、行ってもいいわよ! 
《クククッ。じゃ、とっととオレを見つけろ。そして、さっきと同じようにオレを追いかけるんだっ!》


 ……追いかける。


 私のぽっかりと空いた、あの日の記憶を────!



 ────知ってる。



 スローモーションのように、私の前をたくさんの人が行き来し、会話が耳に入ってくる。


 さっきとまったく同じだ。

 名無しさんを見つけなきゃ!

 私はまわりをぐるりと見渡す。


あっ、いたっ!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

美濃初樹

カイ

死神

ミナミさん

沙織

十一歳の初樹

沙織

【現在】

西園寺晶

初樹のお母さん

初樹のお父さん

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色