記憶を取り戻すために⑶
文字数 811文字
《そうカリカリすんなよ。……そうか。おまえは、オレを追いかけない道を選ぶんだな》
《クククッ。無難な道だ、それもいいだろう。おまえには、これまでどおりの生活がまっている。そして、伝えるがいい。“ママ、幸せになって”とな》
《よし、“無難な道”を選ぶ。それがおまえの出した答えだな?》
《ふん。選択権をやると言ったろ?》
《クククッ。それじゃさっきの繰り返しで、つまらないじゃないか》
《そうだな、せっかくのチャンスだ。遠回りしていかないか?》
《いや、無理にとは言わない。おまえ、5年前のこと、気になってたじゃないか》
《あの日のこと、覚えてないんだろ? オレなら、おまえを5年前につれていってやれるぜ》
《ああ、そうだ。一度は死んだんだ。怖いことなんてもうないんだろ? クククッ。なにも難しく考えることはないさ、そうだな……、寄り道とでも思えばいい。ま、おまえは“無難な道”を選択したんだ。早く大切な人のところへ行くがいい》
《行きたいけど?》
《クククッ。じゃ、とっととオレを見つけろ。そして、さっきと同じようにオレを追いかけるんだっ!》
私のぽっかりと空いた、あの日の記憶を────!
スローモーションのように、私の前をたくさんの人が行き来し、会話が耳に入ってくる。
さっきとまったく同じだ。
名無しさんを見つけなきゃ!
私はまわりをぐるりと見渡す。