パパとの時間⑵

文字数 969文字

なにか悩み事でもあるのかい?
 え?
…………!
きのうも、そんな顔してたね。今にでも泣き出しそうな顔を。なにかあったのかい?

 いくら平静を(よそお)っていても、パパにはわかっちゃうんだね。


 もし、ここで「初樹だよ」って言ったら、パパは信じてくれるんじゃ……。

……私…………っ!
話してごらん。
ここ数日間、私のまわりでいろんなことが起きていて、頭がついていけないというか、とにかく混乱しているんです。
うん。
父が死んで、ちょうど今日で5年になるんです。おととい、母から再婚相手を紹介されました。人柄の良さそうな人で、文句のつけようがありませんでした。でも私、逃げちゃったんです。いつか、ママに特別な人ができたら、笑って祝福してあげようって、ずっと決めていたのに……。
……まさか、こんな深刻な問題を抱えているとはね。ははは、困ったな。
…………。
逃げ出したことは、決して恥ずかしいことじゃないよ。君には時間が必要だったんだ、ほんのちょっと考える時間がね。人は、いざとなると臆病になる。それは君だけじゃない、私もそうだ。
時間が経てば経つほど後悔はしてるんです。あのとき、どうして「おめでとう」って、言ってあげられなかったんだろうって。母には幸せになってほしいんです! 誰よりも幸せになってもらいたいんです! でも……!
…………。
忘れちゃうかもしれないんだよ、パパのこと。パパからママを奪っちゃうかもしれないんだよ、その人────! 悪い人じゃないってわかってるんです。パパと過ごした思い出が消えていくんじゃないかって、パパのこと忘れちゃうんじゃないかって……!
君は、本当にいい子に育ったんだね。
え?
君は、本当にお父さんが大好きなんだね。大丈夫、君たちの思い出のなかで生き続けていくから。だから、ママをいつまでも縛りつけちゃいけないよ。初樹……、ちゃん。
…………!


 パパ……!


……そうか。君のお母さんは、5年もひとりでいたんだね。女手一つでここまで君を育てるのに、人並み以上の努力と忍耐が必要だったはずだ。母親としてこれまで頑張ってきた分、彼女には幸せになってほしい。心から笑える相手と、幸せにね────。おじさんだったら、そう思うよ。
……うん、私もそう思う。


 ありがとう、パパ。


 私はもう大丈夫。

 5年後に戻ったら、ママに「おめでとう」って言うんだ!


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登場人物紹介

美濃初樹

カイ

死神

ミナミさん

沙織

十一歳の初樹

沙織

【現在】

西園寺晶

初樹のお母さん

初樹のお父さん

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