記憶の謎⑴

文字数 1,109文字

あっ、お姉ちゃん!
はっちゃん!


 よかった。


 パパもまだ無事────……。


……遅かったな。
な、名無しさん……っ!
なに驚いてんだよ。久しぶりにオレを見て、おじけづいたのか?


 そんな……、
 私に名無しさんの姿が見えるということは!


クククッ! たった今、おまえに印をつけてきたところだ。残念だったな。


 パパ……!


パパ、見て見て! チョコに花の首飾り、作ってみたの!
かわいいな、チョコ。よかったな。


 まって……!


 私の額に、なにか黒いものがついてる!


……クククッ。そうかそうか、おまえにはあの印が見えるんだな? そうだ、あれが“黒星”だ。


 ────黒星。

 あれが、死神の狙った獲物に付けられるという印。


そうだ、よく覚えてたな。あの印をつけられた者は、30分以内に死ぬことになる。
30分以内!?


 パパは、道路に飛び出した私をかばって……!


ああ、それが10分後になるか、20分後になるかは、オレの気分次第だがな。おまえは大人しく見物してればいい。
やだよ、またパパを目の前で失うなんて。もう……、本当に……っ。いっそのこと未来へ帰りたい…………っ!
未来? 帰る? クククッ。なに言ってんだ、おまえ。
え?
せっかく人生をやり直してるんだ。同じことの繰り返しじゃ、つまらないだろ?
……どういう意味?
“父親ではなく、自分が死ねばよかった”と、ずっと思ってきたんだろ?
え……。
『……うっ……、あなた……っ!』


 ママは私の前では元気に振る舞っていたけど、本当は知っている。


 夜、寝静まった頃、パパの大好きだったお酒を飲みながら泣いていることを────。


『……ママ……』


  ママの泣いている姿を初めて見たあの日から、私はずっと思っていた。


 ママから笑顔を奪ったのは自分なんだって……!


 パパじゃなく、自分だったら────……!


────そう、だからオレはおまえの心を救ってやろうっていうのさ。本来あるべき形に正すために。
……本来あるべき形?
そう、本来たどるべき道へ。そうすることによって、失ったものを、失わずに済むのさ。
……失ったものを、失わずに済む? つまり、どういうこと?
 スッと、名無しさんが突然姿を消す。
え……、消え……た…………。
クククッ。後ろだよ、後ろ。
 背後からの冷たい視線と、私をあざ笑うような声が聞こえてきた。
驚いたか? すごいだろ、これが本来の力だ。おまえの記憶とともに眠っていて、オレもこの5年、辛かったんだぜ。ただの猫に成り下がっちまったってな!
眠ってた? 私の記憶といっしょにって、それどういう意味?
……どういう意味、か。それは自分で探すんだな。あ、これだけは教えてやろう。おまえの記憶のことを。
私の、記憶?
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登場人物紹介

美濃初樹

カイ

死神

ミナミさん

沙織

十一歳の初樹

沙織

【現在】

西園寺晶

初樹のお母さん

初樹のお父さん

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