記憶の謎⑵

文字数 1,008文字

おまえが今までなぜ事故のことや、あの男の記憶がなかったのか。どんなに思い出そうとしても、おまえには思い出せるはずがなかったのさ。
どういうこと?
おまえに付けた黒星は、父親が死んでくれたおかげで消えたわけだが、命拾いしたおまえには、その()()を払ってもらったのさ。
……代償?


 まさか────!


そう、記憶さ。

今朝見た夢も、昼間に草むらで思い出したのも、全ておまえの失った記憶さ。あの日────、事故前後の記憶と、事故直後に一番最初におまえの目に映った者との記憶を、きれいさっぱり、オレがもらったってわけさ。

一番最初に……、映った……者……?
 あのとき、道路下に転げ落ちた私に声をかけたのは────……!
『初樹ちゃんっ、初樹ちゃん……っ! しっかり……っ!!』
『……あっ……、お、お兄……ちゃん……』


 海だっ!


だから、海のこと────、バイクのお兄ちゃんのことを覚えてなかったのね。

そうだ。

今になって、記憶が戻ったのはなぜ? 単純に考えるなら、まだあの事故が起きていないから。だから、私には記憶が戻り、名無しさんには本来の力が戻った。

それで?

わかっているのは、本来死ぬべきだった私が代償として払ったのが“記憶”。私の記憶と、名無しさんの力をペアとして考えるなら、名無しさんは狙った獲物を取り損なったから力を失った────、ってことになるよね?


『おまえには、もう一度人生をやり直すチャンスをやる』


 ……あの言葉は、名無しさんのチャンスでもあったってわけだ!



クククッ。なかなかいいセンスしてんな。
名無しさんは、失った力を取り戻すために、どうしても私を5年前に連れて行きたかったのね。“次こそは()る”、という意味で。本来死ぬべきだった私が死ねば、名無しさんは力を失わずにすむから!


 ────私の……、死……。


 名無しさんは、(はな)から私を生き返らせる気なんかなかったんだ!


そう、全部おまえの考えてるとおりさ。取り逃がした獲物をそう簡単に手放すわけないだろ。オレは死神なんだ。
ひどい、だましたのね!
だます? なに言ってんだ、おまえにはいくつかの選択権を与えたじゃないか。この道を選んだのは自分じゃないか。
そうだけど、名無しさんが私を……!
最終的に選んだのは、おまえだ。クククッ。安心しろ、今度こそオレが冥府へと導いてやる。おっと、そろそろ来るぜ、ほら……。
え?


 ブォ────ンッ!


初樹っ!
……海、なんで?
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登場人物紹介

美濃初樹

カイ

死神

ミナミさん

沙織

十一歳の初樹

沙織

【現在】

西園寺晶

初樹のお母さん

初樹のお父さん

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