記憶を取り戻すために⑴

文字数 647文字

ねぇ、死神って()み嫌われる存在だけど。私、“名無しさん”みたいな死神は嫌いじゃないよ。
 死神をむぎゅっと抱きしめた。
う、わっ……、やめろぉ───っ! オレになつくなっ!
うわぁ、モフモフ♡
すっげー、死神相手に……。
地縛霊、見てないで助けろっ!
はいはい……。
さーて、オレの気が変わる前に、さっさと顔を近づけろ。
へ?
もう一度、人生をやり直したいんだろ? なら、さっきと同じように、オレの額に顔を近づけるんだ。
わ、わかったわよ。
 カイと、これで本当にお別れなんだ……。
…………。
おい、別れを()しんでる場合じゃない。心を空っぽにして、早く顔を近づけろっ!
もう、せっかっちなんだから。少しくらいお別れの時間をくれたっていいじゃない!
あ?

もう一度やり直したいんだろ?

わかったわよ。くっつけりゃいいんでしょっ!
よし、次に目を閉じろ。いいか、なにも考えずに、ゆっくりと目を閉じるんだ。

 何も考えずに────────。


 私は息を吐きながらゆっくりと目を閉じる。

 すると、さっきと同じように、おでこが温かくなるのを感じた。

《今から、3つ数える。オレが3つ数えるまで、絶対に目を開けるな。おまえを今から10分前に戻してやる。おまえは人込みのなかでオレを見つける。あとは、おまえがどうしたいかを選ぶんだ》
 死神の声が、頭の中で響く。



 え?

《言っただろう。なにも考えるなって。おまえは、心の中を空っぽにして、ただ目を閉じていればいいんだ》

 心を空っぽに……?
《そうだ。よし、いくぞ。1、2、3────……》
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登場人物紹介

美濃初樹

カイ

死神

ミナミさん

沙織

十一歳の初樹

沙織

【現在】

西園寺晶

初樹のお母さん

初樹のお父さん

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