代償⑴

文字数 991文字

 トラックの運転手さんによって救急車は到着したものの、パパは搬送中に息絶えた。

 そして、11歳の私はというと、2日後、目を覚ました時にパパの死を知ることになる。



 未来を変えることができなかった。



さて、もうそろそろタイムリミットだ。まさか、おまえを5年後に戻すことになろうとは……。
ちょっと、なにそれ。はじめから私を殺す気でいたのね! ちゃんと未来に戻してよね。遠回りとか、寄り道とか、もうこりごりだから。ったく、人の命をなんだと思ってんのよ!
クッ! やな女だぜ。ここに連れてくるのは、いとも簡単だったのに。まさか、こんな結果になろうとはな!
初樹、おまえ……、いったい誰としゃべってんの?
あ……。
 そっか、海には名無しさんの姿が見えないんだ。
死神。

猫なんだけど、私たちの目の前にいるんだよね。

……あ? ふざけてんの?
でも今なら、信じられるかもな。
わかっているとは思うが、オレがつけた黒星は、おまえの父親の死と引き換えに消えた。ただし、命拾いしたおまえには、今回も代償として記憶をもらう。
……記憶、また?
ああ。おまえも知ってのとおり、事故前後の記憶と、その男との記憶を全部な。
また、私から思い出がなくなっちゃうんだね……。
前に戻るだけさ。記憶を思い出す前にな。
そうだけど……。
 チョコとじゃれている海を見る。


 バイクのお兄ちゃんとの思い出が消えちゃうなんて!


それもルールだ。仕方のないことだってあるさ。
そんなルール聞いてないっ!
あとはだな……、
まだ何かあるの!?
おまえが未来に戻れば、過去で関わった奴らから“おまえ”という存在は消える。そして、おまえもだ。
つまり、どういうこと?
未来に戻れば、気になんかしなくなるさ。だって、おまえは過去で過ごした記憶すら残ってないんだからな。
それじゃ、海のことも、ミナミさんのことも……!
そう、全て忘れる。そして、彼らもな。

なにも気にすることはないさ。だって、みんなが忘れてるんだからさ。過去の奴らは、過去の奴らで、そこに“おまえ”はいたけど、“おまえ”のいないストーリーが出来上がるってわけさ。まー、おまえが関わりすぎたせいで、多少……、いや、かなり変わってしまった()()もいるようだが。

…………!
もたもたしてる時間はない。おまえには、やらなくてはならないことがまだ残ってるんだろう。さあ、未来へ帰ろう。


 そうだ、ママに早く伝えなきゃ!


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登場人物紹介

美濃初樹

カイ

死神

ミナミさん

沙織

十一歳の初樹

沙織

【現在】

西園寺晶

初樹のお母さん

初樹のお父さん

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