親友 其の十
文字数 1,461文字
「……ありがと、ユミちゃん」
「え?」
「嬉しいこと言ってくれたから」
「思ったこと言っただけだよ?」
「うん、でも嬉しかったから。ほんと……もっと生きてるうちに会えていたら……」
そう言って、宗近くんは私に向かって手を伸ばしてきた。
かと思うと、頬に触れるか触れないかの所で手を止め、一呼吸おいてから腕を引っ込めた。
「宗近くん?」
「さてとっ! やりたいことやったし、そろそろエージのとこ戻るかなー」
「え? やりたいことって……カップル潰ししかしてないよ?」
私は眉間に皺を寄せながら言うと
「そうだっけ? でももういいから。ユミちゃんと居て楽しかったし満足満足~」
彼はそう言って帰ろうと身体を浮かせ始めたが、私は思わずその腕を掴んで引き留めた。
なぜか「もういい」という言葉が胸に引っかかった。
まだ何かしたいことがあったんじゃ……。
「本当にもういいの? ほら、好きだった子に会いに行きたいとか他に何か……」
「……あの子はきっと今幸せなはずだよ。だから今更俺が行っても意味ないし、他にやりたいことも……」
「宗近くん……」
私はどうしても手を離す事ができず、無言で彼の顔をジッと見つめ続ける。
「――……ああ、じゃあ一か所だけ寄り道してってもいい?」
宗近くんが寄りたかった場所……車が行きかう大通りの途中にある、石階段の先にあったのは……
「神社?」
暗闇の中、静かに佇む神社だった。
規模的にはそれほど大きなものではないけれど、社の裏にある月明かりに照らされた巨大な楠がとても印象的だった。
「俺の父さん、ここの宮司なんだ」
「えっ? そうなの?」
なんか意外。ちょっとビックリしてしまう。
「じゃあ神主さんの息子さんって事は……宗近くんって跡継ぎ?」
「いや、俺は継ぐ気なかったから、ここは弟が継ぐはずだよ」
「そうなんだ……」
栄慶さんがお寺で宗近くんが神社、なんか不思議な巡り合わせだなと思いながら、明かりが灯されていない真っ暗な神社を二人で眺める。
って……あれ?
「確か……神社で葬儀ってしないんだよね?」
「そう、神道では死は穢 れだとされてるから持ち込んじゃだめなの。だから俺の葬儀…神葬祭は家でやってんじゃないかな」
そう言って彼は神社近くに建てられた、平屋建ての小さな家を指差した。
するとちょうど中から喪服を着た男女が複数人出てくるところが見えた。
私達はゆっくり下に降りて近づいて行くと、家の前で話す年配の女性達の会話が聞こえてきた。
「バイク事故なんてねぇ……」
「即死だったらしいわよ。まぁあの息子さんならいつか何かしでかすとは思ってたけど……」
「ほら、あの子って弟君と違って……ねぇ?」
「ああ、弟の正近 くんはK大、首席で卒業したのよね。それに比べて兄の宗近くんは大学中退。神社の手伝いもせずバイトしながら遊びほうけてたって話よー」
「今はどこの神社も後継者問題で頭を悩ませてるって言うじゃない? ほんと、亡くなったのがお兄さんの方で良かったわぁ~」
自分たちの声が大きくなっている事にも気づかず、彼女たちは言いたい放題言い合いながら笑っている。
「ちょっとっ!! そんな言い方ってっ!」
「いいよ、本当の事だから」
「でも……」
「自分勝手に生きて、最後は事故って死んだんだ。出来の悪い神主の息子、それが俺」
「さ、入って?」
彼は笑顔で私を招き入れた。
「え?」
「嬉しいこと言ってくれたから」
「思ったこと言っただけだよ?」
「うん、でも嬉しかったから。ほんと……もっと生きてるうちに会えていたら……」
そう言って、宗近くんは私に向かって手を伸ばしてきた。
かと思うと、頬に触れるか触れないかの所で手を止め、一呼吸おいてから腕を引っ込めた。
「宗近くん?」
「さてとっ! やりたいことやったし、そろそろエージのとこ戻るかなー」
「え? やりたいことって……カップル潰ししかしてないよ?」
私は眉間に皺を寄せながら言うと
「そうだっけ? でももういいから。ユミちゃんと居て楽しかったし満足満足~」
彼はそう言って帰ろうと身体を浮かせ始めたが、私は思わずその腕を掴んで引き留めた。
なぜか「もういい」という言葉が胸に引っかかった。
まだ何かしたいことがあったんじゃ……。
「本当にもういいの? ほら、好きだった子に会いに行きたいとか他に何か……」
「……あの子はきっと今幸せなはずだよ。だから今更俺が行っても意味ないし、他にやりたいことも……」
「宗近くん……」
私はどうしても手を離す事ができず、無言で彼の顔をジッと見つめ続ける。
「――……ああ、じゃあ一か所だけ寄り道してってもいい?」
宗近くんが寄りたかった場所……車が行きかう大通りの途中にある、石階段の先にあったのは……
「神社?」
暗闇の中、静かに佇む神社だった。
規模的にはそれほど大きなものではないけれど、社の裏にある月明かりに照らされた巨大な楠がとても印象的だった。
「俺の父さん、ここの宮司なんだ」
「えっ? そうなの?」
なんか意外。ちょっとビックリしてしまう。
「じゃあ神主さんの息子さんって事は……宗近くんって跡継ぎ?」
「いや、俺は継ぐ気なかったから、ここは弟が継ぐはずだよ」
「そうなんだ……」
栄慶さんがお寺で宗近くんが神社、なんか不思議な巡り合わせだなと思いながら、明かりが灯されていない真っ暗な神社を二人で眺める。
って……あれ?
「確か……神社で葬儀ってしないんだよね?」
「そう、神道では死は
そう言って彼は神社近くに建てられた、平屋建ての小さな家を指差した。
するとちょうど中から喪服を着た男女が複数人出てくるところが見えた。
私達はゆっくり下に降りて近づいて行くと、家の前で話す年配の女性達の会話が聞こえてきた。
「バイク事故なんてねぇ……」
「即死だったらしいわよ。まぁあの息子さんならいつか何かしでかすとは思ってたけど……」
「ほら、あの子って弟君と違って……ねぇ?」
「ああ、弟の
「今はどこの神社も後継者問題で頭を悩ませてるって言うじゃない? ほんと、亡くなったのがお兄さんの方で良かったわぁ~」
自分たちの声が大きくなっている事にも気づかず、彼女たちは言いたい放題言い合いながら笑っている。
「ちょっとっ!! そんな言い方ってっ!」
「いいよ、本当の事だから」
「でも……」
「自分勝手に生きて、最後は事故って死んだんだ。出来の悪い神主の息子、それが俺」
「さ、入って?」
彼は笑顔で私を招き入れた。