Curry du père 其の五
文字数 1,714文字
(でもオムライスもいいなぁ……)
つい栄慶さんのお皿をジーっと見つめてしまう。
「食べにくいんだが」
(ちぇ~~)
少しくらいこっちに入れてくれても……と思いながらナポリタンを食べていると、目の前に一口分乗せたスプーンが差し出された。
「ほら」
「んっ」
間髪入れずパクリと口で受け入れる。
(ん~! これも美味!!)
ご飯とソースの絡み具合も、卵のとろけ具合も丁度良い!
(んふふ~幸せ~)
「まったくお前は……」
呆れた顔をしながら、栄慶さんも一口すくって口に入れる。
「あっ!!」
「……何だ?」
「い、いえ! 何でもない……です」
これって……
間接キス……だよね?
いやいや、私ってば子供じゃないんだから!!
そもそも栄慶さんとキスした事あるじゃないっ
間接キスの一つや二つ!!
「――~っっ」
「手が止まっているぞ?」
「え? あっ、いや……」
赤くなった顔を見られまいと、慌ててグラスの水を口に含む。
「間接キスだけでは物足りないか?」
「――っっ!?」
ごふっっ、と吹き出しそうになるのをかろうじてこらえる。
「げほっ、なな何を言って……」
「物欲しそうに見てたじゃないか」
栄慶さんは自分の口元を親指で拭う。
その行為を目で追っていた私は、ニヤリと笑みを浮かべた所でハッと気づき、慌てて訂正した。
「そ、そんなこと思ってませんよっ! オムライスも美味しいなって……見てただけです!!」
「では、もう一口食べるか?」
ほら……と、もう一度スプーンを向けられる。
「いぃいいいりませんっっ!!」
(もうっ、もう~~~~っっ!!)
慌てて自分のを食べ進めるが、面白そうに見つめてくる視線が気になってしょうがなかった。
◇◇◇◇
――――食後。
「お味はどうでしたか?」
「とっても美味しかったですっ」
「ああ、旨かった」
私達は食後のコーヒーを飲みながら感想を述べる。
栄慶さんも何だかんだで美味しかったらしい。
「あ……でも、ナポリタンは普通のとはちょっと違いましたよね?」
「ええ、日本人向けにアレンジされたケチャップ炒めのナポリタンではなく、スパゲティ・アラ・ナポリターナのように、茹でたパスタにトマトソースを絡めてるんですよ」
そう言って、彼はニコリと嬉しそうな笑みを浮かべる。
「あ、もしかして以前勤めてたお店って フレンチですか?」
「はい、本場の2つ星レストランで4年間修業を。母が倒れたと聞いて急遽日本へ戻って来たんです」
フランスまで行って学ぶなんて、本当に料理が好きなんだなぁ……。
オーナーは親不孝者だとか言ってたけど、彼には彼なりの考えがあって、親元を離れたのかもしれない。
そう思うと嬉しくなってしまう。
飲み終えたカップをソーサーに戻し、私は笑顔で答えた。
「ご馳走様でした。美味しい料理が食べれて良かったですっ。次は是非カレーを食べに、また来ますね」
楽しみにしてますと言った瞬間、彼は顔をしかめる。
「みんな同じ事言うんだな」
「え?」
ポツリとつぶやいたその言葉の意味が分からなくて聞き返そうとすると、ガタンと席を立つ音がした。
「さて、帰るか」
栄慶さんは伝票を手にしてレジへと向かう。
「えっ? ちょ、ちょっと待ってください! 私が払いますからっ」
「かまわん」
(祓ってもらったお礼に奢ろうと思ってたのにっ)
慌てて後を追いながら伝票に手を伸ばすが、栄慶さんはそれを避けてスタスタと行ってしまう。
(――もう!)
会計後、店の外まで見送ってくれた彼の表情には笑顔が戻っていた。
だけど……どことなく寂しいような……そんな雰囲気を感じた。
――――
――――
「私……何か変な事言ったんでしょうか……」
帰る道すがら、隣で歩く栄慶さんに尋ねる。
「……確かにあの店で出される料理は美味いと思う。だが、それだけだという事だ」
「それだけって……?」
やっぱり意味が分からず聞き返してみたけれど……栄慶さんはもう何も答えてくれなかった。
つい栄慶さんのお皿をジーっと見つめてしまう。
「食べにくいんだが」
(ちぇ~~)
少しくらいこっちに入れてくれても……と思いながらナポリタンを食べていると、目の前に一口分乗せたスプーンが差し出された。
「ほら」
「んっ」
間髪入れずパクリと口で受け入れる。
(ん~! これも美味!!)
ご飯とソースの絡み具合も、卵のとろけ具合も丁度良い!
(んふふ~幸せ~)
「まったくお前は……」
呆れた顔をしながら、栄慶さんも一口すくって口に入れる。
「あっ!!」
「……何だ?」
「い、いえ! 何でもない……です」
これって……
間接キス……だよね?
いやいや、私ってば子供じゃないんだから!!
そもそも栄慶さんとキスした事あるじゃないっ
間接キスの一つや二つ!!
「――~っっ」
「手が止まっているぞ?」
「え? あっ、いや……」
赤くなった顔を見られまいと、慌ててグラスの水を口に含む。
「間接キスだけでは物足りないか?」
「――っっ!?」
ごふっっ、と吹き出しそうになるのをかろうじてこらえる。
「げほっ、なな何を言って……」
「物欲しそうに見てたじゃないか」
栄慶さんは自分の口元を親指で拭う。
その行為を目で追っていた私は、ニヤリと笑みを浮かべた所でハッと気づき、慌てて訂正した。
「そ、そんなこと思ってませんよっ! オムライスも美味しいなって……見てただけです!!」
「では、もう一口食べるか?」
ほら……と、もう一度スプーンを向けられる。
「いぃいいいりませんっっ!!」
(もうっ、もう~~~~っっ!!)
慌てて自分のを食べ進めるが、面白そうに見つめてくる視線が気になってしょうがなかった。
◇◇◇◇
――――食後。
「お味はどうでしたか?」
「とっても美味しかったですっ」
「ああ、旨かった」
私達は食後のコーヒーを飲みながら感想を述べる。
栄慶さんも何だかんだで美味しかったらしい。
「あ……でも、ナポリタンは普通のとはちょっと違いましたよね?」
「ええ、日本人向けにアレンジされたケチャップ炒めのナポリタンではなく、スパゲティ・アラ・ナポリターナのように、茹でたパスタにトマトソースを絡めてるんですよ」
そう言って、彼はニコリと嬉しそうな笑みを浮かべる。
「あ、もしかして以前勤めてたお店って フレンチですか?」
「はい、本場の2つ星レストランで4年間修業を。母が倒れたと聞いて急遽日本へ戻って来たんです」
フランスまで行って学ぶなんて、本当に料理が好きなんだなぁ……。
オーナーは親不孝者だとか言ってたけど、彼には彼なりの考えがあって、親元を離れたのかもしれない。
そう思うと嬉しくなってしまう。
飲み終えたカップをソーサーに戻し、私は笑顔で答えた。
「ご馳走様でした。美味しい料理が食べれて良かったですっ。次は是非カレーを食べに、また来ますね」
楽しみにしてますと言った瞬間、彼は顔をしかめる。
「みんな同じ事言うんだな」
「え?」
ポツリとつぶやいたその言葉の意味が分からなくて聞き返そうとすると、ガタンと席を立つ音がした。
「さて、帰るか」
栄慶さんは伝票を手にしてレジへと向かう。
「えっ? ちょ、ちょっと待ってください! 私が払いますからっ」
「かまわん」
(祓ってもらったお礼に奢ろうと思ってたのにっ)
慌てて後を追いながら伝票に手を伸ばすが、栄慶さんはそれを避けてスタスタと行ってしまう。
(――もう!)
会計後、店の外まで見送ってくれた彼の表情には笑顔が戻っていた。
だけど……どことなく寂しいような……そんな雰囲気を感じた。
――――
――――
「私……何か変な事言ったんでしょうか……」
帰る道すがら、隣で歩く栄慶さんに尋ねる。
「……確かにあの店で出される料理は美味いと思う。だが、それだけだという事だ」
「それだけって……?」
やっぱり意味が分からず聞き返してみたけれど……栄慶さんはもう何も答えてくれなかった。