インテリ住職 其の八
文字数 1,898文字
現在、ガイスト創刊時のメンバーで残っているのは彼一人。
他の人達は体調を崩して退職したり、耐え切れず別の部署に異動したりと逃げるように離れていったらしい。
今のメンバーは壮真編集長が他部署から厳選し、引き抜いてきた人達ばかりで、皆変わり者。
まぁ……そんな人達だからこそ、ここでやっていけてるんだろうけど……
――って、あっ!
私は違うから!
私は変わり者じゃないから!!
――ゴホンッ。
ともかく彼は、この雑誌を十年以上部数を落とすことなく発行させ続けてきた敏腕編集長なのだ。
ただ……
「ん? どうしたの室世君、僕の事そんな熱い眼差 しで見つめて……」
「――はっ!! もしかして僕の美貌に惚れちゃった!? 駄目だよ!! 僕の美貌は僕だけのものなんだからね!!」
とても残念な人だったりする。
「いや……さっきもね、廊下の窓に映った僕を見て(何てカッコイイんだろう……)って、思わず溜息がでちゃってさぁ~それにこの前も……」
さらに自分語りを始めてしまった彼にドン引きしつつ、改めて確認する。
美貌と言う件に関しては、強 ち間違ってはいないのよね。
長身でイケメン俳優顔負けの整った顔、思わず聞き惚れる程の色気ある甘い声。
栄慶さんとはまた違ったタイプのイケメン。年齢も年相応には見えず、十以上若く見られる事もある。
――が、女性のお誘いがあっても即刻断る。絶世の美女が現れようが興味なし。
ただ〝僕の美しさは罪だね〟って言って、周囲をドン引かせてしまう……残念な人。
「――――で、室世君は難しい顔をして何を見てたのかな?」
私の冷ややかな視線に気づいたらしい。編集長は私が手にしていた写真を真横から覗き込む。
「ああ、この廃病院……ね」
「知ってるんですか?」
「病院跡って場所が場所だけに、いろんな噂が飛び交うものなんだけどね。ここは最近特に〝少年の霊が出る〟って言われるようになった場所だね」
(最近特に……何か意味があるのかな)
そう思うと……写真に写る白い影は、何かを訴えようとしているように見えなくもない。
さらに気になってしまった。
「もしその噂が本当なら次の廃墟特集で使えそうなんだけどね。誰かに行かせてみるかなぁ~」
「だったら私が取材してきていいですか!!」
思わず私は手を挙げる。
私だったら何か分かるかもしれない。何か役に立てるかもしれない。そう思っての咄嗟の判断だった。
編集長はそんな私に一瞬驚きの表情を見せたが、すぐにウ~ンと考え込んだ。
「そうだねぇ……君もそろそろ仕事に慣れてきた頃だし、記事にしてみる? 使えそうなら次の特集で使うよ」
「本当ですか!? ありがとうございますっ!」
やった! 初めて自分の書いた記事が載るかも!!
(編集長、さっきは残念な人だって言ってごめんなさいっ)
心の中で謝りつつ、私は取材を引き受ける事にした。
「じゃあ期待してるからね?」
そう言うと編集長はパチリとウインクを私に向ける。
(ぐっ! その顔は反則ですって!!)
自分のデスクへと戻る彼の後ろ姿を目で追いながら、私は高鳴る鼓動を落ち着かせる為に深い溜息をつく。
(美形のウインク、恐るべし)
今までどれほどの女性があの色香に惑わされてきただろうか……危うく私も落とされる所だった。
(ん~~――、よしっ!!)
気持ちを切り替える為に私は頬を二度叩き、気合を入れ直す。そして善は急げと残った仕分け作業を早々に終わらせた。
(まずは斎堂寺に寄って、栄慶さんにあの病院のこと聞いてみよう)
帰り支度をし、お疲れ様ですと周りに声を掛けながら出口へと向かう。
そしてドアに手を掛けた瞬間、私はふと……あることに気づいた。
(なんか……軽くなってない?)
肩を確認してみると、さっきまで私に憑いてた〝貞美さん(仮)〟がいなくなっていた。
(どこに行ったんだろ……もしかして成仏した?)
私はキョロキョロと辺りを見渡す。
…………。
彼女は……編集長に憑いていた。
横から抱きつくように両腕を彼の首に回し、頬を紅潮 させながら、恋する乙女のような目をして彼をジッと見つめている。
(もしかしてさっきので!?)
まさか霊にも有効だとは……改めてあのウィンクの破壊力を知ってしまった。
しかも編集長ってば憑かれてるというのに呑気に鼻歌なんか歌ってる。
…………。
私は視なかった事にして会社を後にした。
他の人達は体調を崩して退職したり、耐え切れず別の部署に異動したりと逃げるように離れていったらしい。
今のメンバーは壮真編集長が他部署から厳選し、引き抜いてきた人達ばかりで、皆変わり者。
まぁ……そんな人達だからこそ、ここでやっていけてるんだろうけど……
――って、あっ!
私は違うから!
私は変わり者じゃないから!!
――ゴホンッ。
ともかく彼は、この雑誌を十年以上部数を落とすことなく発行させ続けてきた敏腕編集長なのだ。
ただ……
「ん? どうしたの室世君、僕の事そんな熱い
「――はっ!! もしかして僕の美貌に惚れちゃった!? 駄目だよ!! 僕の美貌は僕だけのものなんだからね!!」
とても残念な人だったりする。
「いや……さっきもね、廊下の窓に映った僕を見て(何てカッコイイんだろう……)って、思わず溜息がでちゃってさぁ~それにこの前も……」
さらに自分語りを始めてしまった彼にドン引きしつつ、改めて確認する。
美貌と言う件に関しては、
長身でイケメン俳優顔負けの整った顔、思わず聞き惚れる程の色気ある甘い声。
栄慶さんとはまた違ったタイプのイケメン。年齢も年相応には見えず、十以上若く見られる事もある。
――が、女性のお誘いがあっても即刻断る。絶世の美女が現れようが興味なし。
ただ〝僕の美しさは罪だね〟って言って、周囲をドン引かせてしまう……残念な人。
「――――で、室世君は難しい顔をして何を見てたのかな?」
私の冷ややかな視線に気づいたらしい。編集長は私が手にしていた写真を真横から覗き込む。
「ああ、この廃病院……ね」
「知ってるんですか?」
「病院跡って場所が場所だけに、いろんな噂が飛び交うものなんだけどね。ここは最近特に〝少年の霊が出る〟って言われるようになった場所だね」
(最近特に……何か意味があるのかな)
そう思うと……写真に写る白い影は、何かを訴えようとしているように見えなくもない。
さらに気になってしまった。
「もしその噂が本当なら次の廃墟特集で使えそうなんだけどね。誰かに行かせてみるかなぁ~」
「だったら私が取材してきていいですか!!」
思わず私は手を挙げる。
私だったら何か分かるかもしれない。何か役に立てるかもしれない。そう思っての咄嗟の判断だった。
編集長はそんな私に一瞬驚きの表情を見せたが、すぐにウ~ンと考え込んだ。
「そうだねぇ……君もそろそろ仕事に慣れてきた頃だし、記事にしてみる? 使えそうなら次の特集で使うよ」
「本当ですか!? ありがとうございますっ!」
やった! 初めて自分の書いた記事が載るかも!!
(編集長、さっきは残念な人だって言ってごめんなさいっ)
心の中で謝りつつ、私は取材を引き受ける事にした。
「じゃあ期待してるからね?」
そう言うと編集長はパチリとウインクを私に向ける。
(ぐっ! その顔は反則ですって!!)
自分のデスクへと戻る彼の後ろ姿を目で追いながら、私は高鳴る鼓動を落ち着かせる為に深い溜息をつく。
(美形のウインク、恐るべし)
今までどれほどの女性があの色香に惑わされてきただろうか……危うく私も落とされる所だった。
(ん~~――、よしっ!!)
気持ちを切り替える為に私は頬を二度叩き、気合を入れ直す。そして善は急げと残った仕分け作業を早々に終わらせた。
(まずは斎堂寺に寄って、栄慶さんにあの病院のこと聞いてみよう)
帰り支度をし、お疲れ様ですと周りに声を掛けながら出口へと向かう。
そしてドアに手を掛けた瞬間、私はふと……あることに気づいた。
(なんか……軽くなってない?)
肩を確認してみると、さっきまで私に憑いてた〝貞美さん(仮)〟がいなくなっていた。
(どこに行ったんだろ……もしかして成仏した?)
私はキョロキョロと辺りを見渡す。
…………。
彼女は……編集長に憑いていた。
横から抱きつくように両腕を彼の首に回し、頬を
(もしかしてさっきので!?)
まさか霊にも有効だとは……改めてあのウィンクの破壊力を知ってしまった。
しかも編集長ってば憑かれてるというのに呑気に鼻歌なんか歌ってる。
…………。
私は視なかった事にして会社を後にした。