Curry du père 其の一
文字数 1,232文字
――6月下旬。
気象予報士が梅雨入りを伝えてから二週間余り。
5日前から降り続いていた雨も止み、久々に見る青空と太陽。
「晴れて良かった~」
(原稿、濡らしでもしたら大変だもんね)
今日はガイストで連載している人気ホラー作家、田沼先生の原稿を受け取りに行く日で、今はその帰り道。
先生とは月に2回、まだ4回しか会った事がないけど、無口で無愛想な人で、初めて会った時は気難しそうな感じが怖くて会話が弾まず、手土産を渡す事しか出来なかった。
もしかして私嫌われた? なんて思っていたけど、今日行った時はニコニコと愛想が良かった。
私の持参するお菓子を気に入ってくれたらしく、今日のも楽しみだと嬉しそうに受け取ってくれた。
こういう時、いろんな店を食べ歩いた知識と情報が役に立つ。
前任者から先生は見た目と違って甘党で、雑誌の取り寄せをよく利用していると聞き、人気だけど取り寄せをしていないお菓子ばかり選んで持って行った甲斐があった。
(本当はグルメ誌の編集がしたくて高羽出版に入ったんだけどなぁ……)
私は会社へと戻る道すがら、これまでの事を振り返る。
ガイスト編集部に配属されてもうすぐ三ヶ月。今ではこの部署に配属されて良かったのかも……、って思う。
ホラー雑誌の編集になった事で、私の霊媒体質を少しだけど仕事で役立てる事が出来てる。
そしてあの日、車に轢かれそうになった私を助けてくれたお坊さん……永見栄慶さんと再び会う事ができた。
彼は私に憑いた霊を祓ってくれたり……相談に乗ってくれたり……危ない所を助けてくれたり……
キス……したり。
(ふあっ!!)
思わず頬が赤くなり、両手で顔を挟む。
あの廃病院での事があってから、ふと彼とのキスを思い出しては悶絶してしまう私がいる。
彼の薄い唇が、私の唇を優しく包み込み、角度を変えて何度も何度も……。
(お、思い出しちゃだめ――――っ)
足を止め、ブンブンと左右に頭を振りながら、脳裏に浮かんだ情景を追い出す。
(はぁ~~)
そして冷静を取り戻した私は、深いため息をつく。
……こんな私とは裏腹に、栄慶さんはいつも通りの俺様っぷりで、私をからかっては楽しんでいる。
(もしかして……あの廃病院での事も、単に私をからかっていただけ?)
あの後も以前と変わらず、祓ってもらう代わりに掃除したりお茶淹れたり、最近では買い物にも行かされたり。
(そもそも 〝好きだ〟って言われてないじゃない……)
私はガクリと項垂れる。
(私の気持ちはどうなるのよ――……)
……って。
(べ、別に栄慶さんの事なんて何とも思ってないんだからっ)
あの時は……あれよ!
〝吊り橋効果〟ってやつ!
あの時感じたドキドキは、怖いっていう方のドキドキだったのよ。
ただの私の勘違い!
「そっ、そうよ! 栄慶さんの事なんて……」
「私 が 何 だ ?」
気象予報士が梅雨入りを伝えてから二週間余り。
5日前から降り続いていた雨も止み、久々に見る青空と太陽。
「晴れて良かった~」
(原稿、濡らしでもしたら大変だもんね)
今日はガイストで連載している人気ホラー作家、田沼先生の原稿を受け取りに行く日で、今はその帰り道。
先生とは月に2回、まだ4回しか会った事がないけど、無口で無愛想な人で、初めて会った時は気難しそうな感じが怖くて会話が弾まず、手土産を渡す事しか出来なかった。
もしかして私嫌われた? なんて思っていたけど、今日行った時はニコニコと愛想が良かった。
私の持参するお菓子を気に入ってくれたらしく、今日のも楽しみだと嬉しそうに受け取ってくれた。
こういう時、いろんな店を食べ歩いた知識と情報が役に立つ。
前任者から先生は見た目と違って甘党で、雑誌の取り寄せをよく利用していると聞き、人気だけど取り寄せをしていないお菓子ばかり選んで持って行った甲斐があった。
(本当はグルメ誌の編集がしたくて高羽出版に入ったんだけどなぁ……)
私は会社へと戻る道すがら、これまでの事を振り返る。
ガイスト編集部に配属されてもうすぐ三ヶ月。今ではこの部署に配属されて良かったのかも……、って思う。
ホラー雑誌の編集になった事で、私の霊媒体質を少しだけど仕事で役立てる事が出来てる。
そしてあの日、車に轢かれそうになった私を助けてくれたお坊さん……永見栄慶さんと再び会う事ができた。
彼は私に憑いた霊を祓ってくれたり……相談に乗ってくれたり……危ない所を助けてくれたり……
キス……したり。
(ふあっ!!)
思わず頬が赤くなり、両手で顔を挟む。
あの廃病院での事があってから、ふと彼とのキスを思い出しては悶絶してしまう私がいる。
彼の薄い唇が、私の唇を優しく包み込み、角度を変えて何度も何度も……。
(お、思い出しちゃだめ――――っ)
足を止め、ブンブンと左右に頭を振りながら、脳裏に浮かんだ情景を追い出す。
(はぁ~~)
そして冷静を取り戻した私は、深いため息をつく。
……こんな私とは裏腹に、栄慶さんはいつも通りの俺様っぷりで、私をからかっては楽しんでいる。
(もしかして……あの廃病院での事も、単に私をからかっていただけ?)
あの後も以前と変わらず、祓ってもらう代わりに掃除したりお茶淹れたり、最近では買い物にも行かされたり。
(そもそも 〝好きだ〟って言われてないじゃない……)
私はガクリと項垂れる。
(私の気持ちはどうなるのよ――……)
……って。
(べ、別に栄慶さんの事なんて何とも思ってないんだからっ)
あの時は……あれよ!
〝吊り橋効果〟ってやつ!
あの時感じたドキドキは、怖いっていう方のドキドキだったのよ。
ただの私の勘違い!
「そっ、そうよ! 栄慶さんの事なんて……」
「私 が 何 だ ?」