加茂倉少年の恋 其の十八
文字数 1,687文字
「すみません、お待たせしてしまって……」
俊介くんにカップを渡したエリナちゃんは、すぐさま「次あれに乗ろ♡」と彼の手を取り観覧車へと移動し、私達もその後を追って二人の後ろに並ぶと、彼は振り返り、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ううん、気にしないで? 待ってる間、俊介くんの事いろいろ教えてもらってたんだよ。ほんと俊介くんは優しいよね?」
私はエリナちゃんに同意を求めると、彼女は俊介くんの隣で嬉しそうに頷く。
「ええっ! 俺のこと話してたんですかっ! そんな事ないですよっ、俺、優しくなんか……」
そう言って赤面しながら手を振る俊介くんの腕に、エリナちゃんは自分の腕を絡ませる。
「そんなことないよ~、俊くんは世界一優しいんだからっ♡」
「エ、エリナちゃんってばっ……!」
照れくさそうに笑う俊介くんに、嬉しそうに笑みを浮かべるエリナちゃん。私はそんな二人の姿を見て、ほんと、可愛いなぁ~と頬を緩ませていると、私達の頭上でフラフラと泳いでいた宗近くんが
「お人よし少年さ~、人助けとかやってて疲れな~い?」
と言いながら降りてきた。
「え?」
俊介くんはそれを聞いて驚いた表情を浮かべる。
「ちょ……宗近くんっ!」
私は慌てて止めようと手を伸ばすが、そのままそれは身体をすり抜け空を切り、バランスを崩した私は栄慶さんの腕に支えられる。そんな私達を気にも留めず、宗近くんは肩をすくめ、両手の手の平を上に向けながら言葉を続ける。
「だってさ~、話聞いてる限り、困ってる人いたらもれなく助けようって感じじゃない? 迷子もそうだけど、今日のデートだってそうだしさ~」
「このままだと、自分を犠牲にしてまで人助けするようになっちゃうんじゃない? そこまでして人助けって必要~?」
その呆れたような物言いと仕草に、エリナちゃんは一瞬ムッとした表情を浮かべ口を開きかけたが
「――……死んだらどうすんの?」
という打って変わって低く真面目な声に、彼女は眉を顰め口を噤む。
そして私も宗近くんの言わんとすることを理解する。
もし、川で溺れている人がいれば、俊介くんはすぐさま泳いで助けに行くのではないだろうか。火事で取り残された人が居れば、燃え盛る火の中、助けに入るのではないだろうか。
もしそれで自分が命を落としたら?
俊介くんと初めて会った時もそうだった。
あのまま廃病院で憑依されたままだったら今頃どうなっていただろう……。彼の優しさは、時に仇となってしまう場合もあるのだ。
そんなリスクを冒してまで、人助けする意味はあるのだろうか。
そんな事を考えていると、俊介くんは困った顔をしながら……
「俺は……人助けしなきゃいけないって思ってやってるわけじゃないです。自分がその時やりたいと思ったからやってるんです」
「そんな俺のこと、偽善者だって言う人もいます。それでもやめようとは思いません、恩を着せたいわけじゃないんです、ただやりたいと思ったから……助けたいと思ったからやってるだけです」
「それでも……だめですか?」
困ったように顔を傾けながら答える俊介くんに、宗近くんは「そうだけど~」と腕を組み、納得いかない表情を向ける。
するとそのやり取りを静かに見守っていた栄慶さんが、「するのはかまわんだろう」と口を挟んだ。
「自分がやりたいと思うのならそうすればいい。だが、どうしようもなくなった時は周りを頼れ」
「ご住職……」
「少なくとも、お前の事を心配する者がいる事だけは忘れるな。こいつもこいつなりに心配してるんだ」
そう言って栄慶さんは宗近くんを親指で指さすと、「そ、そんなこと……思ってないんだからねっ!」とツンデレキャラのように返しながら慌ててそっぽ向く。
すると俊介くんは安心したかのように笑みを浮かべ、心配そうに彼を見つめるエリナちゃんに「さ、楽しもうっ」と声を掛けた。
そんな彼らを見つめながら、ほんと、良い子達だな~と感心していると、そんな私を見ていた栄慶さんは
「癒見……お前もだぞ」
と、呆れたように呟いた。
俊介くんにカップを渡したエリナちゃんは、すぐさま「次あれに乗ろ♡」と彼の手を取り観覧車へと移動し、私達もその後を追って二人の後ろに並ぶと、彼は振り返り、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ううん、気にしないで? 待ってる間、俊介くんの事いろいろ教えてもらってたんだよ。ほんと俊介くんは優しいよね?」
私はエリナちゃんに同意を求めると、彼女は俊介くんの隣で嬉しそうに頷く。
「ええっ! 俺のこと話してたんですかっ! そんな事ないですよっ、俺、優しくなんか……」
そう言って赤面しながら手を振る俊介くんの腕に、エリナちゃんは自分の腕を絡ませる。
「そんなことないよ~、俊くんは世界一優しいんだからっ♡」
「エ、エリナちゃんってばっ……!」
照れくさそうに笑う俊介くんに、嬉しそうに笑みを浮かべるエリナちゃん。私はそんな二人の姿を見て、ほんと、可愛いなぁ~と頬を緩ませていると、私達の頭上でフラフラと泳いでいた宗近くんが
「お人よし少年さ~、人助けとかやってて疲れな~い?」
と言いながら降りてきた。
「え?」
俊介くんはそれを聞いて驚いた表情を浮かべる。
「ちょ……宗近くんっ!」
私は慌てて止めようと手を伸ばすが、そのままそれは身体をすり抜け空を切り、バランスを崩した私は栄慶さんの腕に支えられる。そんな私達を気にも留めず、宗近くんは肩をすくめ、両手の手の平を上に向けながら言葉を続ける。
「だってさ~、話聞いてる限り、困ってる人いたらもれなく助けようって感じじゃない? 迷子もそうだけど、今日のデートだってそうだしさ~」
「このままだと、自分を犠牲にしてまで人助けするようになっちゃうんじゃない? そこまでして人助けって必要~?」
その呆れたような物言いと仕草に、エリナちゃんは一瞬ムッとした表情を浮かべ口を開きかけたが
「――……死んだらどうすんの?」
という打って変わって低く真面目な声に、彼女は眉を顰め口を噤む。
そして私も宗近くんの言わんとすることを理解する。
もし、川で溺れている人がいれば、俊介くんはすぐさま泳いで助けに行くのではないだろうか。火事で取り残された人が居れば、燃え盛る火の中、助けに入るのではないだろうか。
もしそれで自分が命を落としたら?
俊介くんと初めて会った時もそうだった。
あのまま廃病院で憑依されたままだったら今頃どうなっていただろう……。彼の優しさは、時に仇となってしまう場合もあるのだ。
そんなリスクを冒してまで、人助けする意味はあるのだろうか。
そんな事を考えていると、俊介くんは困った顔をしながら……
「俺は……人助けしなきゃいけないって思ってやってるわけじゃないです。自分がその時やりたいと思ったからやってるんです」
「そんな俺のこと、偽善者だって言う人もいます。それでもやめようとは思いません、恩を着せたいわけじゃないんです、ただやりたいと思ったから……助けたいと思ったからやってるだけです」
「それでも……だめですか?」
困ったように顔を傾けながら答える俊介くんに、宗近くんは「そうだけど~」と腕を組み、納得いかない表情を向ける。
するとそのやり取りを静かに見守っていた栄慶さんが、「するのはかまわんだろう」と口を挟んだ。
「自分がやりたいと思うのならそうすればいい。だが、どうしようもなくなった時は周りを頼れ」
「ご住職……」
「少なくとも、お前の事を心配する者がいる事だけは忘れるな。こいつもこいつなりに心配してるんだ」
そう言って栄慶さんは宗近くんを親指で指さすと、「そ、そんなこと……思ってないんだからねっ!」とツンデレキャラのように返しながら慌ててそっぽ向く。
すると俊介くんは安心したかのように笑みを浮かべ、心配そうに彼を見つめるエリナちゃんに「さ、楽しもうっ」と声を掛けた。
そんな彼らを見つめながら、ほんと、良い子達だな~と感心していると、そんな私を見ていた栄慶さんは
「癒見……お前もだぞ」
と、呆れたように呟いた。