親友 其の二十一
文字数 1,877文字
突然の出来事に、私は思考が追いつかず固まってしまう。
そんな私の微かに開いた口の隙間から、彼は滑らすように自分の舌を潜り込ませてきた。
「んっ……」
背筋にゾクリと電流が走るような感覚を覚え、反射的に後ろへのけ反ろうとしたが、彼はそれを阻止するかのように私の後頭部に右手を回し固定する。
そして更に奥へと侵入してきた。
「ふっ……んくっ……」
私はビクリと身体を震わせ、期待と不安が交錯する中、目を閉じて身構える。
だけど次の瞬間訪れたのは……思っていたのとは違う、労 わるような優しいキスだった。
「ん……んっ……」
優しく包み込むように絡めてくるその舌の感触に、私は思わず酔いしれるように身をゆだねる。
その行為は次第に脳を刺激し、痺れるような高揚感が生まれ、私は彼の法衣をギュッと掴った。
すると栄慶さんはそれを拒絶だと思ったのか、すぐに唇を離す。
「あ……」
催促するように目を開けた私の視線と、彼の探るような視線が混ざり合う。
その一瞬の間は、わずかに残っていた私の羞恥心を捨て去るには十分すぎるものだった。
「んっ……」
私は自ら栄慶さんにキスをし、下唇を甘噛みする。
ぎこちないその行為に応えるように、彼は角度を変えながら啄むようなキスを返してくれる。
そして最後は長めに重ね合わせるのだけのキスをして、彼の唇は離れていった。
「はぁ…はっ…」
私は身体に籠った熱を吐き出すように、途切れ途切れに息を吐く。
栄慶さんは右手の親指で私の唇を拭いながら、満足したような笑みを浮かべていた。
夏の夜風が火照った身体を冷やしていくと同時に、私の止まっていた思考も動き出し、現状を把握し始める。
(わ……私っ、今……栄慶さんに……じっ、自分からキスしてっ……)
行為を思い出しながら私は赤面する。
(ち、違うのっ……これは……雰囲気に流されてつい……、私の意思じゃなくてっ……)
(もうっ、もう~~~っっ)
恥ずかしいっ
穴があったら入りたいっ!!
そんな私の思いとは裏腹に、彼はしれっと
「ああ、痒みが治まった」
と、掴んでいたもう片方の手を離した。
「おっ、治まったじゃないですよっ! こんなっ……だまし討ちみたいなこと──!!」
羞恥心を隠すように、握りしめた両手を上下に振りながら彼に怒ると
「私になら何をされてもいいのだろう?」
という言葉が返ってきて、私は両手を顔の高さに振り上げたまま固まった。
(い、今の言葉って……)
聞き覚えのある……というか、自分が言った記憶のある言葉。
そう……あれは栄慶さんに憑依した宗近くんに言った言葉で……
でも彼に憑依された人達は皆、その時のことは覚えていなかったはず……
だけど……まさか……
「声……聞こえ……て……?」
探るように聞いた私に、栄慶さんは
「あいにく、意識を手放すほど弱い精神ではないんでな」
と、意地の悪い笑みを浮かべた。
「――~~っ」
「私にキスされると嬉しいのだろう?」
「――~~~っ!」
「私を温めたいとも言っていたな?」
「――~~~~~~っっ!!」
「ああ、あと首元に込めた念は、キスマークついでに入れたものだ。間違えるなよ?」
「――~~~~~~~~っっっ!!!!」
次々と繰り出される精神攻撃に、私は今にも卒倒しそうになる。
いや、もう意識を手放せたらどんなに楽か。
顔から火が出るほど恥ずかしくて、金魚のように口をパクパクさせる。
そんな私の姿を栄慶さんは無言で見つめていたかと思うと、右手で自分の口を押さえ
「ははっ」
と、声を出して笑った。
「――!?」
(栄慶さんが……笑った!?)
今まで笑みを浮かべて笑うような表情しか見た事がなかった私は、声を出して笑ったその姿に驚き、確認するようにマジマジと見つめる。
そんな私の視線に気づいたのか、彼は軽く咳払いすると同時に背を向けて歩き出し、私は慌てて後を追いながら懇願した。
「ま、待って下さいっ! もう一回っ、もう一回今の見せて下さいっ!」
「何の事だ」
「今、声出して笑ったじゃないですかっ!」
「笑ってなどいない」
「笑いましたってっ! ハハッって、ハハッってっ!!」
「ネズミの物まねか?」
「夢の国じゃないです――っ!!」
結局……いつもの掛け合いもと、私達は家路に着くのだった。
そんな私の微かに開いた口の隙間から、彼は滑らすように自分の舌を潜り込ませてきた。
「んっ……」
背筋にゾクリと電流が走るような感覚を覚え、反射的に後ろへのけ反ろうとしたが、彼はそれを阻止するかのように私の後頭部に右手を回し固定する。
そして更に奥へと侵入してきた。
「ふっ……んくっ……」
私はビクリと身体を震わせ、期待と不安が交錯する中、目を閉じて身構える。
だけど次の瞬間訪れたのは……思っていたのとは違う、労 わるような優しいキスだった。
「ん……んっ……」
優しく包み込むように絡めてくるその舌の感触に、私は思わず酔いしれるように身をゆだねる。
その行為は次第に脳を刺激し、痺れるような高揚感が生まれ、私は彼の法衣をギュッと掴った。
すると栄慶さんはそれを拒絶だと思ったのか、すぐに唇を離す。
「あ……」
催促するように目を開けた私の視線と、彼の探るような視線が混ざり合う。
その一瞬の間は、わずかに残っていた私の羞恥心を捨て去るには十分すぎるものだった。
「んっ……」
私は自ら栄慶さんにキスをし、下唇を甘噛みする。
ぎこちないその行為に応えるように、彼は角度を変えながら啄むようなキスを返してくれる。
そして最後は長めに重ね合わせるのだけのキスをして、彼の唇は離れていった。
「はぁ…はっ…」
私は身体に籠った熱を吐き出すように、途切れ途切れに息を吐く。
栄慶さんは右手の親指で私の唇を拭いながら、満足したような笑みを浮かべていた。
夏の夜風が火照った身体を冷やしていくと同時に、私の止まっていた思考も動き出し、現状を把握し始める。
(わ……私っ、今……栄慶さんに……じっ、自分からキスしてっ……)
行為を思い出しながら私は赤面する。
(ち、違うのっ……これは……雰囲気に流されてつい……、私の意思じゃなくてっ……)
(もうっ、もう~~~っっ)
恥ずかしいっ
穴があったら入りたいっ!!
そんな私の思いとは裏腹に、彼はしれっと
「ああ、痒みが治まった」
と、掴んでいたもう片方の手を離した。
「おっ、治まったじゃないですよっ! こんなっ……だまし討ちみたいなこと──!!」
羞恥心を隠すように、握りしめた両手を上下に振りながら彼に怒ると
「私になら何をされてもいいのだろう?」
という言葉が返ってきて、私は両手を顔の高さに振り上げたまま固まった。
(い、今の言葉って……)
聞き覚えのある……というか、自分が言った記憶のある言葉。
そう……あれは栄慶さんに憑依した宗近くんに言った言葉で……
でも彼に憑依された人達は皆、その時のことは覚えていなかったはず……
だけど……まさか……
「声……聞こえ……て……?」
探るように聞いた私に、栄慶さんは
「あいにく、意識を手放すほど弱い精神ではないんでな」
と、意地の悪い笑みを浮かべた。
「――~~っ」
「私にキスされると嬉しいのだろう?」
「――~~~っ!」
「私を温めたいとも言っていたな?」
「――~~~~~~っっ!!」
「ああ、あと首元に込めた念は、キスマークついでに入れたものだ。間違えるなよ?」
「――~~~~~~~~っっっ!!!!」
次々と繰り出される精神攻撃に、私は今にも卒倒しそうになる。
いや、もう意識を手放せたらどんなに楽か。
顔から火が出るほど恥ずかしくて、金魚のように口をパクパクさせる。
そんな私の姿を栄慶さんは無言で見つめていたかと思うと、右手で自分の口を押さえ
「ははっ」
と、声を出して笑った。
「――!?」
(栄慶さんが……笑った!?)
今まで笑みを浮かべて笑うような表情しか見た事がなかった私は、声を出して笑ったその姿に驚き、確認するようにマジマジと見つめる。
そんな私の視線に気づいたのか、彼は軽く咳払いすると同時に背を向けて歩き出し、私は慌てて後を追いながら懇願した。
「ま、待って下さいっ! もう一回っ、もう一回今の見せて下さいっ!」
「何の事だ」
「今、声出して笑ったじゃないですかっ!」
「笑ってなどいない」
「笑いましたってっ! ハハッって、ハハッってっ!!」
「ネズミの物まねか?」
「夢の国じゃないです――っ!!」
結局……いつもの掛け合いもと、私達は家路に着くのだった。