加茂倉少年の恋 其の十七
文字数 1,646文字
「あたしさ、16のとき家を出て……それからずっと一人で生きてきてさ。入院したときも頼れる人いないし、身体は思うように動かないし……ガリガリに痩せて長かった髪もゴッソリ抜け落ちちゃって……あたしの人生なんだったんだろうって毎日思ってた……」
「あの日もそう。起き上がろうとしてバランス崩してベッドから落ちて……。ナースコール押す気も起きなくってさ。もうこのまま死んでもいいかなーって天井見上げてたら……」
『大丈夫ですか!! 起き上がれますか!?』
「……って、声かけてくれたのが俊くんだった」
そう言うと、エリナちゃんは思い起こすように空を見上げる。
「でもね、あたしそのとき俊くんに当たっちゃったのよ。『放っておいてっ! あたしこのまま死んでもいいのよっ! あたしが死んでも誰も悲しまないんだからっ! どうせあたし一人なんだからっ! 一人で死ぬんだからっ!』って。……そしたら俊くん、あたしを抱き起こしながら何て言ったと思う?」
『今、目の前であなたが死んだら俺、悲しいです。もし明日、あなたが亡くなったと知っても俺、すごく悲しいです。だからすみません、放っておけないです』
「って言ったのよ。初対面の相手によ? ビックリしたと同時に涙出てきちゃったわ」
その言葉を聞いて、俊介くんらしいなぁ……と思わず私が呟くと、彼女もまた「ほんと、らしいわよね」と微笑む。
そしてエリナちゃんは「俊くんの良い所はそれだけじゃないのよ?」と嬉しそうに言葉を続ける。
「それから何度も会いに来てくれたのよ。おじいちゃんのお見舞いのついでだからって言って。……まぁ……あたしだけじゃなかったけどね。俊くんってば老若男女いろんな人の話し相手してんだもの」
「……それでもさ、声かけてくれるのが嬉しくて……ガリガリで肌もガサガサなのに化粧なんかまたし始めてさ……」
「絶対見た目、可笑しいはずなのに……俊くんってば、来るたび『今日もお姉さん綺麗ですね』って言ってくれたのよ?」
「ほんと……俊くんは誰よりも優しい……あたしが最初で最後に恋した相手よ」
そう言って笑みを浮かべたエリナちゃんは、とても幸せそうで……恋する女の子そのものだった。
と共に……、私は彼女の言った言葉に胸が痛んだ。
(最初で……最後……)
今日、エリナちゃんは恋した相手と最初で最期のデートなんだ。
好きな人ともう会えないと分かっていて……それでも彼女は幸せそうに笑っている。
そんな彼女の姿を見て……私は隣に座る栄慶さんに視線を移した。
もしも……栄慶さんと二度と会えなくると分かっていて……私は今の彼女と同じように笑っていられるだろうか。
そんな事を考えると、胸が強く締め付けられ、思わず胸元をギュッと掴む。
「癒見……大丈夫か?」
栄慶さんが心配そうな顔で私に声を掛けてくれる。
「…………」
「大丈夫……です……」
一呼吸置いてそう答えると、エリナちゃんは大きな溜息をつく。
「ちょっと~しんみりしてんじゃないわよ! あのね、あんたがどう思ったのか知んないけど、あたしは今幸せよっ! 俊くんと今日デートできて世界一幸せなの。だから可哀そうだとか同情は一切いらないからっ!」
そう言ってエリナちゃんはカップの飲み物をグイっと飲み干す。
「さてとっ! 俊くんはまだかな~……あっ! 俊く~ん♡こっちこっち~♡」
俊介くんがこちらに向かってくるのが見えると、エリナちゃんは立ち上がり大きく手を振る。
かと思うと、クルリとこちらに身体を回転させ
「俊くんに今の話、絶対しないでよね! 俊くんには病院での弱った私の姿より、今の元気な私の姿を覚えといてほしいんだからっ!」
と、私達に釘を指しながら俊介くんのカップを手に持ち走って行った。
その後ろ姿を見つめながら、強い子だな~と感心していると、それを見ていた宗近くんは首を傾げながら
「今の姿って……別人じゃ?」
と、ボソリと呟いた。
「あの日もそう。起き上がろうとしてバランス崩してベッドから落ちて……。ナースコール押す気も起きなくってさ。もうこのまま死んでもいいかなーって天井見上げてたら……」
『大丈夫ですか!! 起き上がれますか!?』
「……って、声かけてくれたのが俊くんだった」
そう言うと、エリナちゃんは思い起こすように空を見上げる。
「でもね、あたしそのとき俊くんに当たっちゃったのよ。『放っておいてっ! あたしこのまま死んでもいいのよっ! あたしが死んでも誰も悲しまないんだからっ! どうせあたし一人なんだからっ! 一人で死ぬんだからっ!』って。……そしたら俊くん、あたしを抱き起こしながら何て言ったと思う?」
『今、目の前であなたが死んだら俺、悲しいです。もし明日、あなたが亡くなったと知っても俺、すごく悲しいです。だからすみません、放っておけないです』
「って言ったのよ。初対面の相手によ? ビックリしたと同時に涙出てきちゃったわ」
その言葉を聞いて、俊介くんらしいなぁ……と思わず私が呟くと、彼女もまた「ほんと、らしいわよね」と微笑む。
そしてエリナちゃんは「俊くんの良い所はそれだけじゃないのよ?」と嬉しそうに言葉を続ける。
「それから何度も会いに来てくれたのよ。おじいちゃんのお見舞いのついでだからって言って。……まぁ……あたしだけじゃなかったけどね。俊くんってば老若男女いろんな人の話し相手してんだもの」
「……それでもさ、声かけてくれるのが嬉しくて……ガリガリで肌もガサガサなのに化粧なんかまたし始めてさ……」
「絶対見た目、可笑しいはずなのに……俊くんってば、来るたび『今日もお姉さん綺麗ですね』って言ってくれたのよ?」
「ほんと……俊くんは誰よりも優しい……あたしが最初で最後に恋した相手よ」
そう言って笑みを浮かべたエリナちゃんは、とても幸せそうで……恋する女の子そのものだった。
と共に……、私は彼女の言った言葉に胸が痛んだ。
(最初で……最後……)
今日、エリナちゃんは恋した相手と最初で最期のデートなんだ。
好きな人ともう会えないと分かっていて……それでも彼女は幸せそうに笑っている。
そんな彼女の姿を見て……私は隣に座る栄慶さんに視線を移した。
もしも……栄慶さんと二度と会えなくると分かっていて……私は今の彼女と同じように笑っていられるだろうか。
そんな事を考えると、胸が強く締め付けられ、思わず胸元をギュッと掴む。
「癒見……大丈夫か?」
栄慶さんが心配そうな顔で私に声を掛けてくれる。
「…………」
「大丈夫……です……」
一呼吸置いてそう答えると、エリナちゃんは大きな溜息をつく。
「ちょっと~しんみりしてんじゃないわよ! あのね、あんたがどう思ったのか知んないけど、あたしは今幸せよっ! 俊くんと今日デートできて世界一幸せなの。だから可哀そうだとか同情は一切いらないからっ!」
そう言ってエリナちゃんはカップの飲み物をグイっと飲み干す。
「さてとっ! 俊くんはまだかな~……あっ! 俊く~ん♡こっちこっち~♡」
俊介くんがこちらに向かってくるのが見えると、エリナちゃんは立ち上がり大きく手を振る。
かと思うと、クルリとこちらに身体を回転させ
「俊くんに今の話、絶対しないでよね! 俊くんには病院での弱った私の姿より、今の元気な私の姿を覚えといてほしいんだからっ!」
と、私達に釘を指しながら俊介くんのカップを手に持ち走って行った。
その後ろ姿を見つめながら、強い子だな~と感心していると、それを見ていた宗近くんは首を傾げながら
「今の姿って……別人じゃ?」
と、ボソリと呟いた。