インテリ住職 其の十五

文字数 993文字

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 一瞬、何が起きたのか分からなかった。




 急に目の前が暗くなって




 言葉を発する事が出来なくなって




 思わず “ソレ“から逃れようとしたけど




 大きな手に捉えられて




 上を向かされて




 今度は深く……




 塞がれる。




「――――……っ」




 私はようやく




 栄慶さんに……




 キス……されてるのだと……気づいた。




(キス……してるんだ……)
 そう頭では理解できても……感情が追いつかない。
「んっ……」
 栄慶さんは噛みつくように口を塞いだかと思うと、今度は優しく啄むようなキスをしてくる。
「ん……ふっ……」
 重なり合う唇の隙間から、くぐもった声が何度も洩れる。
 彼は最後に下唇を軽く吸ってから顔を離した。



 私はそのまま……ぼんやりと前を見つめる。
「そんな顔で私を突き放しても、無意味だと分からないのか?」
 栄慶さんが静かな口調で語りかけてくる。
「そ……んな、顔?」
 かろうじて言葉を発した私に、「気づいてないのか……」と彼は両手で私の顔を包み込む。
 その時になって、自分の目からとめどなく涙が流れ続けていた事に気付いた。
「私……、私っっ」
 手の平から伝わる彼の温もりに、私はダムが決壊したかのように押さえていた気持ちが溢れだした。
「本当は来てくれて凄く嬉しかったんです。ううん、心のどこかで栄慶さんなら助けてくれるはずだって思ってた」
「だけどそのせいで……私の身勝手な行動のせいで迷惑かけて、怪我させて……」

 私は彼の両手をギュッと握る。


 こんな体質のせいで、今まで嫌な目ばかりあってきた。


 親は私の言葉を信じてくれず、友達には白い目で見られた。


 でも……栄慶さんは違った。


 初めて私に手を差し伸べてくれた。


 初めて私を守ってくれた。


 それが嬉しくて。


 浮かれて。


 甘えてたの。


「私といると、これからも栄慶さんに迷惑かけちゃう、だから……だからっ!」


 もう会わない、その一言が……今度は言えなかった。



 もっと一緒にいたい。



 そう願ってしまう。



 流れ続ける涙を止めることができなくて……私は目を閉じ俯いた。
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登場人物紹介

室世癒見【むろせゆみ】24歳 

主人公

憑かれやすい女性編集者

永見栄慶【ながみえいけい】27歳

御祓いを得意とするインテリ坊主

壮真貴一朗【そうまきいちろう】43歳

ナルシストタイプな敏腕編集長

匡木圭吾【まさきけいご】

第二章登場人物

洋食亭サン・フイユ現オーナー

間柴一【ましばはじめ】 38歳

第三章登場人物

ガイスト編集部カメラマン

一条史真【いちじょうししん】27歳

第四章登場人物

宗國寺副住職

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