Curry du père 其の四
文字数 1,508文字
「あの……大丈夫ですか?」
心配する声にハッと我に返り、私は慌てて目尻を拭う。
「ご、ごめんなさい。びっくりしてしまって……」
「いえ、気にしないで下さい。こちらも急だったので報告ができずにいたんです」
そう言って笑顔で返される。
一番つらいのは彼だ。これ以上悲しむと困らせてしまうだろう。
私は涙をグッとこらえ、会話を続けた。
「あの、じゃあお店はそのまま、貴方が継がれたんですね」
「ええ、このまま閉めておくわけにもいかないですし、僕も別の店で働いていたので、二週間前に再オープンさせたんです」
(そっか……)
そういえば昔、聞いたことがあるっけ。
『息子が一人居るが、店は継がないって家を出てしまったんだよ。まぁ、継いでほしいとは思ってないがね』
そう言いながらも、どこか寂しそうな顔をしていたオーナー。
『あの子のしたいようにさせてあげたいんだけどねぇ……私としてはここに戻ってきてほしいのよ』
出来ればお嫁さんと一緒にね、と笑っていた奥さん。
(きっと息子さんが継いでくれて、二人とも向こうで喜んでるよね)
よく見ると、彼の顔はどことなくオーナーの面影がある。
あ、でも物腰は奥さん似かも。
懐かしさを覚え、思わずジッと見ていると……ふいに彼の顔が赤くなった。
「……そんなに見つめられると困るんですが……」
「あ! ご、ごめんなさいっ」
思わず私も赤くなってしまう。
「注文したらどうなんだ?」
そんな私達を黙って見ていた栄慶さんが口を挟む。お腹が空いているからか、ちょっと不機嫌っぽい?
私は慌ててメニューを開く。
「えと、じゃあ……」
(――あれ?)
注文しようとしてある事に気づく。
あれが載っていない。
オーナーの特製カレー。私がいつも頼んでいたメニュー。
他のメニューは以前と変わらないのに、それだけが載っていなかった。
「あの……カレーは載せていないんですか?」
彼はその言葉を聞いた途端、一瞬顔を歪めたが、すぐにニコリと笑顔を見せて答えた。
「すみません、今スパイスが全て揃ってなくて出来ないんです。他のメニューはお出しできますので」
「そう……なんですか……」
あのカレーがもう一度食べたかったけど、仕方ないよね。
それじゃあ……と、私はナポリタンを、栄慶さんはオムライスを頼んだ。
料理が出てくるまでの間、栄慶さんと他愛のない話をしながら窓の外を眺める。
ふと……数人の男性が電信柱の陰に隠れるようにしてこちらを見ている事に気が付いた。
(なんだろう?)
私たちを見てる?
いや、店内を確認してる。
あ、写真。
彼らは撮った後も店には入らず、カメラの液晶画面を見て話しこんでいる。
「どうした?」
「栄慶さん、あれって……」
指差すと、彼らはもうそこには居なかった。
(なんだったんだろう?)
不思議に思っていると、辺りにふんわりと良い匂いが漂い始める。
「お待たせしました」
テーブルの上に置かれた美味しそうな匂いに鼻腔が刺激される。
(きゃ~、美味しそうっ)
「いただきまーすっ!」
手を合わせ、さっそくナポリタンを口に入れる。
「ん! 美味しい~!!」
他の店のナポリタンと全然違う。
昔、ここでも食べたことがあるけど……それとも違う気がする。
ソースは濃厚でパスタに絡みやすく、かといってしつこくない。手が込んでるって感じ。
「栄慶さんの方はどうですか?」
「ああ……旨いな」
彼は淡々と答え、黙々と食べている。
なんか、顔が美味しそうに見えないんですけど。
心配する声にハッと我に返り、私は慌てて目尻を拭う。
「ご、ごめんなさい。びっくりしてしまって……」
「いえ、気にしないで下さい。こちらも急だったので報告ができずにいたんです」
そう言って笑顔で返される。
一番つらいのは彼だ。これ以上悲しむと困らせてしまうだろう。
私は涙をグッとこらえ、会話を続けた。
「あの、じゃあお店はそのまま、貴方が継がれたんですね」
「ええ、このまま閉めておくわけにもいかないですし、僕も別の店で働いていたので、二週間前に再オープンさせたんです」
(そっか……)
そういえば昔、聞いたことがあるっけ。
『息子が一人居るが、店は継がないって家を出てしまったんだよ。まぁ、継いでほしいとは思ってないがね』
そう言いながらも、どこか寂しそうな顔をしていたオーナー。
『あの子のしたいようにさせてあげたいんだけどねぇ……私としてはここに戻ってきてほしいのよ』
出来ればお嫁さんと一緒にね、と笑っていた奥さん。
(きっと息子さんが継いでくれて、二人とも向こうで喜んでるよね)
よく見ると、彼の顔はどことなくオーナーの面影がある。
あ、でも物腰は奥さん似かも。
懐かしさを覚え、思わずジッと見ていると……ふいに彼の顔が赤くなった。
「……そんなに見つめられると困るんですが……」
「あ! ご、ごめんなさいっ」
思わず私も赤くなってしまう。
「注文したらどうなんだ?」
そんな私達を黙って見ていた栄慶さんが口を挟む。お腹が空いているからか、ちょっと不機嫌っぽい?
私は慌ててメニューを開く。
「えと、じゃあ……」
(――あれ?)
注文しようとしてある事に気づく。
あれが載っていない。
オーナーの特製カレー。私がいつも頼んでいたメニュー。
他のメニューは以前と変わらないのに、それだけが載っていなかった。
「あの……カレーは載せていないんですか?」
彼はその言葉を聞いた途端、一瞬顔を歪めたが、すぐにニコリと笑顔を見せて答えた。
「すみません、今スパイスが全て揃ってなくて出来ないんです。他のメニューはお出しできますので」
「そう……なんですか……」
あのカレーがもう一度食べたかったけど、仕方ないよね。
それじゃあ……と、私はナポリタンを、栄慶さんはオムライスを頼んだ。
料理が出てくるまでの間、栄慶さんと他愛のない話をしながら窓の外を眺める。
ふと……数人の男性が電信柱の陰に隠れるようにしてこちらを見ている事に気が付いた。
(なんだろう?)
私たちを見てる?
いや、店内を確認してる。
あ、写真。
彼らは撮った後も店には入らず、カメラの液晶画面を見て話しこんでいる。
「どうした?」
「栄慶さん、あれって……」
指差すと、彼らはもうそこには居なかった。
(なんだったんだろう?)
不思議に思っていると、辺りにふんわりと良い匂いが漂い始める。
「お待たせしました」
テーブルの上に置かれた美味しそうな匂いに鼻腔が刺激される。
(きゃ~、美味しそうっ)
「いただきまーすっ!」
手を合わせ、さっそくナポリタンを口に入れる。
「ん! 美味しい~!!」
他の店のナポリタンと全然違う。
昔、ここでも食べたことがあるけど……それとも違う気がする。
ソースは濃厚でパスタに絡みやすく、かといってしつこくない。手が込んでるって感じ。
「栄慶さんの方はどうですか?」
「ああ……旨いな」
彼は淡々と答え、黙々と食べている。
なんか、顔が美味しそうに見えないんですけど。