親友 其の十七
文字数 2,727文字
グッと身構えた私に、次の瞬間やってきたのは……彼の唇の感触……
ではなく
パシンッと何かが弾けたような音。
思わず私は目を見張る。
視界に入ってきたのは……青白い稲光のような光の残像と……
「――ってぇ……」
身体をのけ反らせ、口の下辺りを抑えながら眉をひそめる、宗近くんの姿だった。
(……何が……起こったの?)
身体を起こしながらその様子をうかがっていると、彼は私から視線を外し
「エージの身体ならいけると思ったのになぁ……」
と、独り言を呟いた。
そして「え?」と聞き返した私に向かって、訴えるように言葉を発した。
「それだよそれっ、首のやつ! すっげー痛かったんだからねっ」
もうっ! と宗近くんは腰に手を当て、怒ったようなポーズを取る。
「首のやつ?」
意味が分からずキョトンとしながら頭を傾げていると、宗近くんは「それそれっ!」っと私の鎖骨の上を指差した。
導かれるように私は指された場所付近を指先でなぞり、そして気づく。
(も、もしかして……キスマークの事!?)
慌てて手の平で覆い隠す。
コンシーラーで隠してたはずなのに、どうして!?
「えと、これはそのっ」
どう誤魔化せばっ……。
「俺、今それのせいで弾かれちゃったんだって!」
「え? 弾かれ……た……?」
「もしかして……気づいてなかったの?」
「今みたいに至近距離でユミちゃんに近づくと弾かれるようになってるんだよ。だから今、俺も他の霊達も憑いたりできないはずだよ」
霊が憑けない?
そういえば最近、全然憑いて来ないなとは思ってたけど……。
「何て言うか、ユミちゃんとここで会った時も嫌な感じは少ししてたんだよね」
「でもあの時は手を繋いでも平気だったから、気にしないようにしてたんだよ」
「だけど高台で話してたとき、急にそれが強くなった感じがしたんだよねー……」
「何かの念が込められてる? いや、でも……何で急に? 身体はここに置いてきたわけだし……」
宗近くんは顎に手を当てながら、一人ブツブツと考え込み始める。
そして私も……今聞いたことを整理してみた。
私の首には霊を寄せ付けない何か……念のようなものが込められていて。
それが最近霊に憑かれなくなった要因となってるわけで。
えーと? つまりこれって……
キスマークじゃなかったって事!?
(じゃ、じゃあ……キスマークじゃないのに私ってば鏡見るたび一人で舞い上がって……)
い、いや……舞い上がっては……なかったけどっ!
決して毎朝鏡で確認しながらニヤけてたわけじゃなかったけどっ!!
(でも……)
結局は……
(キスマークじゃなかったんだー……キスマークじゃー……)
急に虚無感に見舞われた私は、深くため息をつき、ガクリと肩を落とす。
「ん? どうかした?」
宗近くんがそんな私の状態を見て、心配そうに問いかける。
慌てて私は顔を上げ、両手を振りながら答えた。
「い……いや、何でもないよ? これが霊除けになるんだったら、消える度に込め直してもらえばいいなって思っただけっ」
「――……無理じゃない?」
「え?」
「それ、腫れてるよ? たぶん身体が拒絶反応起こしてるんじゃない?」
そう言われてみれば、微かに腫れてるような……皮膚が浮き出した感触がある。
前の時もそうだった。
10日経ってだいぶ引いてきたと思ってたのに、何でまた腫れ始めたんだろう……。
「――……、ね、ねぇ……宗近くん……」
「き、キスマークとか付けて……腫れたって事は……ない?」
「俺、今まで女の子達に何度か付けた事あるけど、赤くなっても腫れたなんて聞いたことないよ?」
ぐっ……。
やっぱりこれってキスマークじゃないのね……。
(もうっ! なんて紛らわしいっ)
せめて青痣みたいになってれば勘違いする事もなかったのにっ!
そもそもこれで霊が寄ってこないなら、もっと前からしてくれたら良かったのにっ!!
「まったく、なんで栄慶さん急にこんな事……」
「ふぅん……やっぱりそれ、エージが付けたものだったんだー……」
「って事はエージのやつ、俺が手出ししないように途中で込め直したって事か」
「え?」
「いや? こっちの話ー。まぁ、最初から俺除けに付けてたわけでもないみたいだし。最近、身体に負担掛けてでも付けときたい理由でもできたんじゃない?」
「理由?」
最近何かあったかなと記憶を辿っていくと、あの夜の彼の言葉を思い出した。
『怖くて眠れないんじゃないのか』
栄慶さんは私を抱きしめながらそう言って……
『危険な目に合わせてすまなかった』
と、優しく気遣ってくれた。
(もう怖くないって言ったのに……)
あの時…栄慶さん、私の言葉を聞く前に眠っちゃったんだっけ。
だから海でのこと……また思い出すかもしれないって心配してこれを?
「……」
「あ、今『栄慶さん優しい&|x2661;』なんて思ったでしょ」
「えっ、いや……そんな事っ」
「別にそんなあらかさまに見える場所に付けなくても、肩とか首の後ろとか隠せる場所でもいいわけだからね?」
「それをわざわざユミちゃんが気づく場所にキスマーク付けて自分アピールしてくる所がエージのせこい所なんだよっ!」
「あ、アピールって、これキスマークじゃないんだからっ! たまたま、ここにしか念を込めれなかったのかもしれないしっ」
「――……、そうだよね」
「キスマークじゃないからね、キスマークに見えただけだからね!」
「そ……そうだよ、そうっ!」
私は宗近くんに同意するように何度も頷く。
どうやってここに込めたのかは分からないけど、これは栄慶さんが私を心配して付けてくれただけなんだから……。
「そうだよ。ただそれだけなんだから……」
「そうそうっ、ただそれだけそれだけー」
「……これくらい許されるよねー」
「え、何?」
「何でもなーい! それじゃあ俺、早く手紙書いちゃおっと」
(あ、栄慶さんの姿に戻った……)
宗近くんは何事もなかったかのように栄慶さんの姿で座卓前に座り、置かれていた文箱を開けて中身を取り出し始める。
「えーと、使うのはこれとこれとー……」
「――……」
そしてまた固まったように動かなくなってしまった。
「どうしたの? ちゃんと便箋も封筒もあるし、あとは書くものさえあれば……」
「俺にこれで書けと?」
彼はそう言って、硯箱に入った書道セットを私に見せた。
ではなく
パシンッと何かが弾けたような音。
思わず私は目を見張る。
視界に入ってきたのは……青白い稲光のような光の残像と……
「――ってぇ……」
身体をのけ反らせ、口の下辺りを抑えながら眉をひそめる、宗近くんの姿だった。
(……何が……起こったの?)
身体を起こしながらその様子をうかがっていると、彼は私から視線を外し
「エージの身体ならいけると思ったのになぁ……」
と、独り言を呟いた。
そして「え?」と聞き返した私に向かって、訴えるように言葉を発した。
「それだよそれっ、首のやつ! すっげー痛かったんだからねっ」
もうっ! と宗近くんは腰に手を当て、怒ったようなポーズを取る。
「首のやつ?」
意味が分からずキョトンとしながら頭を傾げていると、宗近くんは「それそれっ!」っと私の鎖骨の上を指差した。
導かれるように私は指された場所付近を指先でなぞり、そして気づく。
(も、もしかして……キスマークの事!?)
慌てて手の平で覆い隠す。
コンシーラーで隠してたはずなのに、どうして!?
「えと、これはそのっ」
どう誤魔化せばっ……。
「俺、今それのせいで弾かれちゃったんだって!」
「え? 弾かれ……た……?」
「もしかして……気づいてなかったの?」
「今みたいに至近距離でユミちゃんに近づくと弾かれるようになってるんだよ。だから今、俺も他の霊達も憑いたりできないはずだよ」
霊が憑けない?
そういえば最近、全然憑いて来ないなとは思ってたけど……。
「何て言うか、ユミちゃんとここで会った時も嫌な感じは少ししてたんだよね」
「でもあの時は手を繋いでも平気だったから、気にしないようにしてたんだよ」
「だけど高台で話してたとき、急にそれが強くなった感じがしたんだよねー……」
「何かの念が込められてる? いや、でも……何で急に? 身体はここに置いてきたわけだし……」
宗近くんは顎に手を当てながら、一人ブツブツと考え込み始める。
そして私も……今聞いたことを整理してみた。
私の首には霊を寄せ付けない何か……念のようなものが込められていて。
それが最近霊に憑かれなくなった要因となってるわけで。
えーと? つまりこれって……
キスマークじゃなかったって事!?
(じゃ、じゃあ……キスマークじゃないのに私ってば鏡見るたび一人で舞い上がって……)
い、いや……舞い上がっては……なかったけどっ!
決して毎朝鏡で確認しながらニヤけてたわけじゃなかったけどっ!!
(でも……)
結局は……
(キスマークじゃなかったんだー……キスマークじゃー……)
急に虚無感に見舞われた私は、深くため息をつき、ガクリと肩を落とす。
「ん? どうかした?」
宗近くんがそんな私の状態を見て、心配そうに問いかける。
慌てて私は顔を上げ、両手を振りながら答えた。
「い……いや、何でもないよ? これが霊除けになるんだったら、消える度に込め直してもらえばいいなって思っただけっ」
「――……無理じゃない?」
「え?」
「それ、腫れてるよ? たぶん身体が拒絶反応起こしてるんじゃない?」
そう言われてみれば、微かに腫れてるような……皮膚が浮き出した感触がある。
前の時もそうだった。
10日経ってだいぶ引いてきたと思ってたのに、何でまた腫れ始めたんだろう……。
「――……、ね、ねぇ……宗近くん……」
「き、キスマークとか付けて……腫れたって事は……ない?」
「俺、今まで女の子達に何度か付けた事あるけど、赤くなっても腫れたなんて聞いたことないよ?」
ぐっ……。
やっぱりこれってキスマークじゃないのね……。
(もうっ! なんて紛らわしいっ)
せめて青痣みたいになってれば勘違いする事もなかったのにっ!
そもそもこれで霊が寄ってこないなら、もっと前からしてくれたら良かったのにっ!!
「まったく、なんで栄慶さん急にこんな事……」
「ふぅん……やっぱりそれ、エージが付けたものだったんだー……」
「って事はエージのやつ、俺が手出ししないように途中で込め直したって事か」
「え?」
「いや? こっちの話ー。まぁ、最初から俺除けに付けてたわけでもないみたいだし。最近、身体に負担掛けてでも付けときたい理由でもできたんじゃない?」
「理由?」
最近何かあったかなと記憶を辿っていくと、あの夜の彼の言葉を思い出した。
『怖くて眠れないんじゃないのか』
栄慶さんは私を抱きしめながらそう言って……
『危険な目に合わせてすまなかった』
と、優しく気遣ってくれた。
(もう怖くないって言ったのに……)
あの時…栄慶さん、私の言葉を聞く前に眠っちゃったんだっけ。
だから海でのこと……また思い出すかもしれないって心配してこれを?
「……」
「あ、今『栄慶さん優しい&|x2661;』なんて思ったでしょ」
「えっ、いや……そんな事っ」
「別にそんなあらかさまに見える場所に付けなくても、肩とか首の後ろとか隠せる場所でもいいわけだからね?」
「それをわざわざユミちゃんが気づく場所にキスマーク付けて自分アピールしてくる所がエージのせこい所なんだよっ!」
「あ、アピールって、これキスマークじゃないんだからっ! たまたま、ここにしか念を込めれなかったのかもしれないしっ」
「――……、そうだよね」
「キスマークじゃないからね、キスマークに見えただけだからね!」
「そ……そうだよ、そうっ!」
私は宗近くんに同意するように何度も頷く。
どうやってここに込めたのかは分からないけど、これは栄慶さんが私を心配して付けてくれただけなんだから……。
「そうだよ。ただそれだけなんだから……」
「そうそうっ、ただそれだけそれだけー」
「……これくらい許されるよねー」
「え、何?」
「何でもなーい! それじゃあ俺、早く手紙書いちゃおっと」
(あ、栄慶さんの姿に戻った……)
宗近くんは何事もなかったかのように栄慶さんの姿で座卓前に座り、置かれていた文箱を開けて中身を取り出し始める。
「えーと、使うのはこれとこれとー……」
「――……」
そしてまた固まったように動かなくなってしまった。
「どうしたの? ちゃんと便箋も封筒もあるし、あとは書くものさえあれば……」
「俺にこれで書けと?」
彼はそう言って、硯箱に入った書道セットを私に見せた。