親友 其の二十
文字数 1,354文字
(って……)
「栄慶さんっ! 斎堂寺、通り過ぎてますよっ!?」
気付けば私達は寺の前を通り過ぎ、薄明りの住宅街の中を歩いていた。
「もう深夜だ。家まで送って行く」
そう言って彼は足を止めない。
「私なら大丈夫ですよっ! 栄慶さん明日も早いんですから、ゆっくり休んでくださいっ!!」
「気にするな」
「でもっ」
「別に帰っても一人だ。誰か待ってるわけでもない」
「――……。きょ、今日だけ……泊まっていっても……いいですよ?」
私は下を向きながら、独り言のように呟いてみる。
「何だ、襲ってほしいのか?」
「違いますよっ!! ほ、ほらっこういう時って、一人でいるより二人でいた方が寂しさも紛れるって言うじゃないですかっ」
私は彼の前に周りこんで足を止めさすと、力説するように伝える。
一人で斎堂寺に帰れば、きっとは宗近くんの事を考えて悲しみに浸る事になるだろう。
そうなった彼の姿を思い浮かべると、放っては置けなくなってしまう。
そんな私の気持ちを察したのか、栄慶さんは私の頭にポンと撫でるように手を置くと
「私は大丈夫だ。お前も宗近に付き合わされて疲れただろう。今日はゆっくり休め」
と、優しく微笑んだ。
「……私の事なんていいんですよ」
もうっ! と、彼の顔を見上げた瞬間、私は驚きの声を上げる。
「え、栄慶さんっ、口の下……血が出てるじゃないですかっ!!」
ちょうど街灯の下で話していた私は、同じように明かりの下にいた栄慶さんの口の下、顎に近い場所に血が付いている事に気が付いた。
「ああ……さっきからこの辺りが痒くてな」
そう言って彼はその場所を人差し指で引っ掻くように触る。
「掻いちゃ駄目ですってっ!」
慌てて私は彼の腕を掴み止めさせる。
もしかして、宗近くんに押し倒されたときに一瞬見えたあの青白い光、あれのせいで?
確かあの時も痛そうに口の下を手で押さえていたはず。
「どうしよう、今絆創膏持ってないし……」
「舐めときゃ治る」
「そこ微妙に舐めれない位置ですって!」
「じゃあ舐めてくれるのか?」
「へ?」
い、今なんて……。
「自分で舐めれないなら、舐めてもらうしかないだろう?」
彼はニヤリと笑う。
「も、もうっ何言ってるんですか! 帰りますよっ!!」
私は栄慶さんの腕を離し、とりあえず家に着いてから絆創膏を渡そうと足を踏み出す。
だけどすぐに腕を掴まれ引き寄せられ、そして
「ほら」
と前屈みになって私の前に顔を近付けてきた。
血は拭ったのか、もう付いてはいない。
いない……けど……。
「――~っ」
「早くしないと誰か来るぞ?」
さすがに深夜と言えど、誰も通らないという確証はない。
そして彼は事が済むまで腕を離してはくれないだろう。
「――っっ」
(ちょ、ちょっと舐めるだけで……いいよね?)
それで満足するのなら……と、私は右手で栄慶さんの頬に手を当て、ゆっくりと顔を近づける。
(ちょっとだけ……一瞬だけだから……)
そう自分に言い聞かせ、僅かに口を開けて彼に唇を近づけていく。
そしてあと数センチの所で
「――!?」
頬に添えていた手首を掴まれたかと思うと……
口を塞がれてしまった。
「栄慶さんっ! 斎堂寺、通り過ぎてますよっ!?」
気付けば私達は寺の前を通り過ぎ、薄明りの住宅街の中を歩いていた。
「もう深夜だ。家まで送って行く」
そう言って彼は足を止めない。
「私なら大丈夫ですよっ! 栄慶さん明日も早いんですから、ゆっくり休んでくださいっ!!」
「気にするな」
「でもっ」
「別に帰っても一人だ。誰か待ってるわけでもない」
「――……。きょ、今日だけ……泊まっていっても……いいですよ?」
私は下を向きながら、独り言のように呟いてみる。
「何だ、襲ってほしいのか?」
「違いますよっ!! ほ、ほらっこういう時って、一人でいるより二人でいた方が寂しさも紛れるって言うじゃないですかっ」
私は彼の前に周りこんで足を止めさすと、力説するように伝える。
一人で斎堂寺に帰れば、きっとは宗近くんの事を考えて悲しみに浸る事になるだろう。
そうなった彼の姿を思い浮かべると、放っては置けなくなってしまう。
そんな私の気持ちを察したのか、栄慶さんは私の頭にポンと撫でるように手を置くと
「私は大丈夫だ。お前も宗近に付き合わされて疲れただろう。今日はゆっくり休め」
と、優しく微笑んだ。
「……私の事なんていいんですよ」
もうっ! と、彼の顔を見上げた瞬間、私は驚きの声を上げる。
「え、栄慶さんっ、口の下……血が出てるじゃないですかっ!!」
ちょうど街灯の下で話していた私は、同じように明かりの下にいた栄慶さんの口の下、顎に近い場所に血が付いている事に気が付いた。
「ああ……さっきからこの辺りが痒くてな」
そう言って彼はその場所を人差し指で引っ掻くように触る。
「掻いちゃ駄目ですってっ!」
慌てて私は彼の腕を掴み止めさせる。
もしかして、宗近くんに押し倒されたときに一瞬見えたあの青白い光、あれのせいで?
確かあの時も痛そうに口の下を手で押さえていたはず。
「どうしよう、今絆創膏持ってないし……」
「舐めときゃ治る」
「そこ微妙に舐めれない位置ですって!」
「じゃあ舐めてくれるのか?」
「へ?」
い、今なんて……。
「自分で舐めれないなら、舐めてもらうしかないだろう?」
彼はニヤリと笑う。
「も、もうっ何言ってるんですか! 帰りますよっ!!」
私は栄慶さんの腕を離し、とりあえず家に着いてから絆創膏を渡そうと足を踏み出す。
だけどすぐに腕を掴まれ引き寄せられ、そして
「ほら」
と前屈みになって私の前に顔を近付けてきた。
血は拭ったのか、もう付いてはいない。
いない……けど……。
「――~っ」
「早くしないと誰か来るぞ?」
さすがに深夜と言えど、誰も通らないという確証はない。
そして彼は事が済むまで腕を離してはくれないだろう。
「――っっ」
(ちょ、ちょっと舐めるだけで……いいよね?)
それで満足するのなら……と、私は右手で栄慶さんの頬に手を当て、ゆっくりと顔を近づける。
(ちょっとだけ……一瞬だけだから……)
そう自分に言い聞かせ、僅かに口を開けて彼に唇を近づけていく。
そしてあと数センチの所で
「――!?」
頬に添えていた手首を掴まれたかと思うと……
口を塞がれてしまった。