加茂倉少年の恋 其の四
文字数 1,716文字
結局この日は気まずい雰囲気のまま夕食を済ませ、入浴してすぐ眠りについた。
(焦っちゃ駄目。少しずつ栄慶さんの事知っていけばいいんだから……)
布団に潜り込み、暗闇のなか天井を見つめる。
一時的だけど、こうやって一つ屋根の下で生活する事になったんだから、これを機に少しずつ栄慶さんと距離を縮めればいい。
そして……もし彼に辛いことがあった時、少しでも支えになれれば……
なれればー……
(っていうか私、今日何もしてないのよねー)
支えるどころか夕食の準備は栄慶さんがしてくれてたし、片づけも
「今日はいろいろあって疲れただろう? 休んでいろ」
って手伝わせてくれなかったし、お風呂から出ればすでにお布団も敷いてくれてたし、もう上げ膳据え膳状態。
これじゃ同居どころか、ただのお客様状態。
のっけからこんなんじゃ駄目だよね。
(――、よしっ! 明日は早起きして栄慶さんに朝食作ってあげよっ)
私も少しは役に立たないとね。
そう思いながら眠りについた私だったが……。
「寝坊した――っっ!!」
朝7時。
(二度寝するなんてーっ)
一度は目が覚めたはずなのに……朝から聞こえてきた栄慶さんの読経が耳に心地よくて、目を瞑りながら聞いてるうちにそのまま二度寝。
慌てて台所へ向かったが、時すでに遅し。
「おはよう……ございます」
シンク前に立つ彼の後ろ姿を発見し、私はドアの影から顔を覗かせる。
「おはよう。良く眠れたか? 朝食できてるぞ」
「はい……でも……」
何か手伝う事はないかと突っ立って考えていると
「早くそこに座れ」
と、席にうながされる。
テーブルを見ると、良い具合に焼き色が付いた干物に彩りよく盛り付けられた煮物に和え物、そして綺麗に巻かれた卵焼きにお漬物……
一汁三菜、素朴で健康的そうな和食がすでに並べられていた。
(凄く美味しそう……)
私だったら目玉焼きにウインナーくらいしか思いつかない。
椅子に座りながら目の前に並んだ朝食を眺めていると、栄慶さんは御飯とお味噌汁をよそってテーブルに置いていく。
「どうした?」
配膳が終わった彼は席に着きながら、気が抜けたように料理を見つめる私を不思議そうに見てくる。
「い、いえ……何でもないですっ、いただきます!」
慌てて私は手を合わせ、煮物や和えものに箸を伸ばす。
(美味しい……凄く美味しい……)
絶妙な味加減の大根と薩摩揚げの煮物に、素材の味を生かした味わい深い白和え。
昨日の夕食もそうだったけど、栄慶さんの作る料理は本当に美味しい。
「不味いか?」
「いえっ! 凄く、凄く美味しいですっ!!」
(ただ……)
一口噛みしめるごとに私の腕のなさを痛感させられるだけで。
(料理なんてたまにしかしないし、作るって言っても和えるだけの簡単なものばかりだったし)
もうっ、何でもっと料理の勉強してこなかったのよっ!!
と、今更自分を叱咤しても遅いわけで。
(私が作る料理なんて、栄慶さんの口には合わないよねー)
そんな事を考えながら彼の作った料理を黙々と口にしていると
「久しぶりだな」
と、栄慶さんはポツリと呟く。
「え?」
顔を上げると、彼は箸を止め微かに笑みを浮かべながら料理を見ていた。
「昨日もそうだが……誰かの為に食事を作るのは久しぶりだ」
「こうやって、向かい合いながら朝食を食べるのもいいもんだな」
そう言って、再び箸を動かす。
「――……、私も久しぶりです」
台所に人がいるのも、料理を作ってもらうのも久しぶり……。
そう思うと何だか心がほっこりした。
栄慶さんも私と同じように感じてくれてるのかな。
(簡単なものしかできないけど……今日の夕食、私が作ったら栄慶さん喜んでくれるかな?)
仕事も休みだし、頑張って作ってみようかな……なんて思いつつ、私は漬物を口に運ぶ。
「んっ、この茄子の漬物美味しっ!!」
「ああ、それは私が漬けたものだ。良い具合に浸かってるだろう?」
「はいっ!」
「……」
うんっ
私は
料理以外頑張ろう!
(焦っちゃ駄目。少しずつ栄慶さんの事知っていけばいいんだから……)
布団に潜り込み、暗闇のなか天井を見つめる。
一時的だけど、こうやって一つ屋根の下で生活する事になったんだから、これを機に少しずつ栄慶さんと距離を縮めればいい。
そして……もし彼に辛いことがあった時、少しでも支えになれれば……
なれればー……
(っていうか私、今日何もしてないのよねー)
支えるどころか夕食の準備は栄慶さんがしてくれてたし、片づけも
「今日はいろいろあって疲れただろう? 休んでいろ」
って手伝わせてくれなかったし、お風呂から出ればすでにお布団も敷いてくれてたし、もう上げ膳据え膳状態。
これじゃ同居どころか、ただのお客様状態。
のっけからこんなんじゃ駄目だよね。
(――、よしっ! 明日は早起きして栄慶さんに朝食作ってあげよっ)
私も少しは役に立たないとね。
そう思いながら眠りについた私だったが……。
「寝坊した――っっ!!」
朝7時。
(二度寝するなんてーっ)
一度は目が覚めたはずなのに……朝から聞こえてきた栄慶さんの読経が耳に心地よくて、目を瞑りながら聞いてるうちにそのまま二度寝。
慌てて台所へ向かったが、時すでに遅し。
「おはよう……ございます」
シンク前に立つ彼の後ろ姿を発見し、私はドアの影から顔を覗かせる。
「おはよう。良く眠れたか? 朝食できてるぞ」
「はい……でも……」
何か手伝う事はないかと突っ立って考えていると
「早くそこに座れ」
と、席にうながされる。
テーブルを見ると、良い具合に焼き色が付いた干物に彩りよく盛り付けられた煮物に和え物、そして綺麗に巻かれた卵焼きにお漬物……
一汁三菜、素朴で健康的そうな和食がすでに並べられていた。
(凄く美味しそう……)
私だったら目玉焼きにウインナーくらいしか思いつかない。
椅子に座りながら目の前に並んだ朝食を眺めていると、栄慶さんは御飯とお味噌汁をよそってテーブルに置いていく。
「どうした?」
配膳が終わった彼は席に着きながら、気が抜けたように料理を見つめる私を不思議そうに見てくる。
「い、いえ……何でもないですっ、いただきます!」
慌てて私は手を合わせ、煮物や和えものに箸を伸ばす。
(美味しい……凄く美味しい……)
絶妙な味加減の大根と薩摩揚げの煮物に、素材の味を生かした味わい深い白和え。
昨日の夕食もそうだったけど、栄慶さんの作る料理は本当に美味しい。
「不味いか?」
「いえっ! 凄く、凄く美味しいですっ!!」
(ただ……)
一口噛みしめるごとに私の腕のなさを痛感させられるだけで。
(料理なんてたまにしかしないし、作るって言っても和えるだけの簡単なものばかりだったし)
もうっ、何でもっと料理の勉強してこなかったのよっ!!
と、今更自分を叱咤しても遅いわけで。
(私が作る料理なんて、栄慶さんの口には合わないよねー)
そんな事を考えながら彼の作った料理を黙々と口にしていると
「久しぶりだな」
と、栄慶さんはポツリと呟く。
「え?」
顔を上げると、彼は箸を止め微かに笑みを浮かべながら料理を見ていた。
「昨日もそうだが……誰かの為に食事を作るのは久しぶりだ」
「こうやって、向かい合いながら朝食を食べるのもいいもんだな」
そう言って、再び箸を動かす。
「――……、私も久しぶりです」
台所に人がいるのも、料理を作ってもらうのも久しぶり……。
そう思うと何だか心がほっこりした。
栄慶さんも私と同じように感じてくれてるのかな。
(簡単なものしかできないけど……今日の夕食、私が作ったら栄慶さん喜んでくれるかな?)
仕事も休みだし、頑張って作ってみようかな……なんて思いつつ、私は漬物を口に運ぶ。
「んっ、この茄子の漬物美味しっ!!」
「ああ、それは私が漬けたものだ。良い具合に浸かってるだろう?」
「はいっ!」
「……」
うんっ
私は
料理以外頑張ろう!