加茂倉少年の恋 其の十三
文字数 2,241文字
(栄慶さんが……栄慶さんが私の髪にっ)
ひゃぁぁぁっと心の中で叫びながら、しばらく体を硬直させていると……
「ママー、あのお姉ちゃん達らぶらぶしてる~」
そんな声が耳に届き、私はハッと顔を上げる。
小さな女の子がこちらを指さしながら通り過ぎたかと思うと、他にもチラチラと視線を向けながら歩く人達に気が付き、私は慌てて栄慶さんから一歩下がった。
「え、えええええ栄慶さんっ! 早くっ早く中に入りましょうよっ!!」
もうっ、私達注目の的になってるじゃないっ
「ん? ああ、チケット買ってこないとな。ここで待っていろ」
「あ、待って下さい! お金お金っ」
チケット売り場へ向かおうとする彼を引き留め、私はカバンから財布を取り出す。
「いらん。今日はデートなんだろう?」
(で、デートっ)
栄慶さんの口からその言葉が出るなんて……
嬉しくてつい頬が緩んでしまう。
「あっ、俺もっ! 自分とエリナちゃんの分出しますっ!!」
「俊くんっ♡」
「え、エリナちゃんっ、抱き着かれると行けないからっ」
俊介くんは彼女を引き離し、慌てて栄慶さんの後を追う。
残された私とエリナちゃんは、二人の後ろ姿を黙って見送る。
人混みで二人が見えなくなり、私は緩んだ頬を引き締めつつ隣で待つエリナちゃんの様子を窺うと、彼女は見えなくなってもまだニコニコと視線を送り続けていた。
(本当に俊介くんが好きなのね)
そんな彼女を見て、私はふと疑問に思っていた事を聞く事にした。
「ねぇエリナちゃん、どうして女の子に憑依しなかったの?」
啓太くんの女装が似合っていたから良いものの、普通男の子に乗り移ろうなんて思うだろうか。
そんな疑問を問いかけると、彼女はチラリとこちらを見たかと思うと、すぐに視線を逸らして口を開いた。
「どうしてって……まぁ不可抗力ってやつよ。生きてる人に乗り移れるなんて思わなかったし、そもそも出来るって分かってても女に入ろうなんて思わないわよ」
ふんっ、と腕を組みながら壁にもたれかかるエリナちゃんを見て、更なる疑問が浮かび上がる。
「女の子の方が俊介くんに近づきやすいとは思わなかったの?」
元々男の子が好きというならまだしも、そうでないのなら女の子に告白された方がいいのでは? っと思っていると、急に彼女から表情が消え……
「だって私が成仏したあと、俊くんがその女と付き合ったら嫌じゃない」
と、憎しみを込めたような声で彼女は答えた。
「な、なるほど……」
恋する女の子は複雑だわ……と思いつつ、もし私が死んでしまったら……なんて考えてしまう。
(そうなったら、栄慶さんは私の事なんてすぐに忘れて他の人と付き合って……キスして……結婚して……)
まだ栄慶さんと正式に付き合ってないせいか、悪い結果しか思い浮かばない。
そもそも今日も俊介くんの為に恋人同士のフリをしてるだけだし。
仕方がないと分かっていても……
(栄慶さんが他の人とキスするのは見たくないなぁ……)
なんて思っていると
「どうかしたのか?」
「ひゃぁっ!」
いつの間に戻ってきたのか、栄慶さんは私の顔を覗き込むようにして声を掛ける。
「い、いえっ、ちょっと考え事してただけですよっ! それじゃあ行きましょうかっ!」
私は左右に手を振りながら誤魔化すと、足早にゲートへと向かった。
中に入ると、エリナちゃんは俊介くんと腕を組みながら歩き始め、私と栄慶さんは二人を見守るように後ろをついて歩く。
どの乗り物に乗ろうかと楽しそうに話す二人の姿はどう見てもカップルにしか見えず、可愛いなぁ……と思いつつ私はキョロキョロと辺りを見渡す。
「そういえば、宗近くんは一緒じゃなかったんですか?」
絶対付いてくると思ったのに、近くにはいないみたい。
「ああ、邪魔だと思ってな。一条に押し付けてきた」
「もうっ、史真さんに迷惑かけちゃ駄目ですよっ」
と言いつつ、ちょっぴり嬉しいと思うわけで……
(ごめんね、宗近くんっ)
心の中で手を合わせつつ、栄慶さんと会話を続ける。
「私、遊園地なんて凄く久しぶりなんですよ」
最後に行ったのはいつだっただろう、何だか童心に返った気分でウキウキしてしまう。
「私もだ。ここは子供の頃何度か貴一郎に連れてきてもらったな」
「それって……編集長の事ですよね?」
念のために確認すると、栄慶さんはコクリと頷く。
前にも栄慶さんが私に電話してきたとき「貴一郎から聞いた」って下の名前で言ってたから仲良いのかなとは思ってたけど……。
「二人って、昔からの知り合いだったんですか?」
「ああ。壮真家とは私が生まれる以前から付き合いがあってな。貴一郎も学生の頃からよく寺に出入りしていたんだ」
「私が幼い頃は、休みの取れない祖父と母に代わって色々な場所に連れて行ってもらったな」
「そうだったんですか」
どうりで……と納得する。
時々、栄慶さんと編集長って似てるなぁって思うことがあったのよね……
特に仕草とか。
あれって、子供の頃から一緒にいたから自然と似てしまったのかもしれない。
(そう思うと編集長って、栄慶さんのお父さんみたいよね)
私はふふっと笑みを浮かべる。
これから似ている所を発見する度ニヤケちゃうかも。
「……」
(でも…)
(ナルシストは似なくて良かったーっ!)
私は心から安堵した。
ひゃぁぁぁっと心の中で叫びながら、しばらく体を硬直させていると……
「ママー、あのお姉ちゃん達らぶらぶしてる~」
そんな声が耳に届き、私はハッと顔を上げる。
小さな女の子がこちらを指さしながら通り過ぎたかと思うと、他にもチラチラと視線を向けながら歩く人達に気が付き、私は慌てて栄慶さんから一歩下がった。
「え、えええええ栄慶さんっ! 早くっ早く中に入りましょうよっ!!」
もうっ、私達注目の的になってるじゃないっ
「ん? ああ、チケット買ってこないとな。ここで待っていろ」
「あ、待って下さい! お金お金っ」
チケット売り場へ向かおうとする彼を引き留め、私はカバンから財布を取り出す。
「いらん。今日はデートなんだろう?」
(で、デートっ)
栄慶さんの口からその言葉が出るなんて……
嬉しくてつい頬が緩んでしまう。
「あっ、俺もっ! 自分とエリナちゃんの分出しますっ!!」
「俊くんっ♡」
「え、エリナちゃんっ、抱き着かれると行けないからっ」
俊介くんは彼女を引き離し、慌てて栄慶さんの後を追う。
残された私とエリナちゃんは、二人の後ろ姿を黙って見送る。
人混みで二人が見えなくなり、私は緩んだ頬を引き締めつつ隣で待つエリナちゃんの様子を窺うと、彼女は見えなくなってもまだニコニコと視線を送り続けていた。
(本当に俊介くんが好きなのね)
そんな彼女を見て、私はふと疑問に思っていた事を聞く事にした。
「ねぇエリナちゃん、どうして女の子に憑依しなかったの?」
啓太くんの女装が似合っていたから良いものの、普通男の子に乗り移ろうなんて思うだろうか。
そんな疑問を問いかけると、彼女はチラリとこちらを見たかと思うと、すぐに視線を逸らして口を開いた。
「どうしてって……まぁ不可抗力ってやつよ。生きてる人に乗り移れるなんて思わなかったし、そもそも出来るって分かってても女に入ろうなんて思わないわよ」
ふんっ、と腕を組みながら壁にもたれかかるエリナちゃんを見て、更なる疑問が浮かび上がる。
「女の子の方が俊介くんに近づきやすいとは思わなかったの?」
元々男の子が好きというならまだしも、そうでないのなら女の子に告白された方がいいのでは? っと思っていると、急に彼女から表情が消え……
「だって私が成仏したあと、俊くんがその女と付き合ったら嫌じゃない」
と、憎しみを込めたような声で彼女は答えた。
「な、なるほど……」
恋する女の子は複雑だわ……と思いつつ、もし私が死んでしまったら……なんて考えてしまう。
(そうなったら、栄慶さんは私の事なんてすぐに忘れて他の人と付き合って……キスして……結婚して……)
まだ栄慶さんと正式に付き合ってないせいか、悪い結果しか思い浮かばない。
そもそも今日も俊介くんの為に恋人同士のフリをしてるだけだし。
仕方がないと分かっていても……
(栄慶さんが他の人とキスするのは見たくないなぁ……)
なんて思っていると
「どうかしたのか?」
「ひゃぁっ!」
いつの間に戻ってきたのか、栄慶さんは私の顔を覗き込むようにして声を掛ける。
「い、いえっ、ちょっと考え事してただけですよっ! それじゃあ行きましょうかっ!」
私は左右に手を振りながら誤魔化すと、足早にゲートへと向かった。
中に入ると、エリナちゃんは俊介くんと腕を組みながら歩き始め、私と栄慶さんは二人を見守るように後ろをついて歩く。
どの乗り物に乗ろうかと楽しそうに話す二人の姿はどう見てもカップルにしか見えず、可愛いなぁ……と思いつつ私はキョロキョロと辺りを見渡す。
「そういえば、宗近くんは一緒じゃなかったんですか?」
絶対付いてくると思ったのに、近くにはいないみたい。
「ああ、邪魔だと思ってな。一条に押し付けてきた」
「もうっ、史真さんに迷惑かけちゃ駄目ですよっ」
と言いつつ、ちょっぴり嬉しいと思うわけで……
(ごめんね、宗近くんっ)
心の中で手を合わせつつ、栄慶さんと会話を続ける。
「私、遊園地なんて凄く久しぶりなんですよ」
最後に行ったのはいつだっただろう、何だか童心に返った気分でウキウキしてしまう。
「私もだ。ここは子供の頃何度か貴一郎に連れてきてもらったな」
「それって……編集長の事ですよね?」
念のために確認すると、栄慶さんはコクリと頷く。
前にも栄慶さんが私に電話してきたとき「貴一郎から聞いた」って下の名前で言ってたから仲良いのかなとは思ってたけど……。
「二人って、昔からの知り合いだったんですか?」
「ああ。壮真家とは私が生まれる以前から付き合いがあってな。貴一郎も学生の頃からよく寺に出入りしていたんだ」
「私が幼い頃は、休みの取れない祖父と母に代わって色々な場所に連れて行ってもらったな」
「そうだったんですか」
どうりで……と納得する。
時々、栄慶さんと編集長って似てるなぁって思うことがあったのよね……
特に仕草とか。
あれって、子供の頃から一緒にいたから自然と似てしまったのかもしれない。
(そう思うと編集長って、栄慶さんのお父さんみたいよね)
私はふふっと笑みを浮かべる。
これから似ている所を発見する度ニヤケちゃうかも。
「……」
(でも…)
(ナルシストは似なくて良かったーっ!)
私は心から安堵した。