インテリ住職 其の七
文字数 1,522文字
……数日後、ガイスト編集部にて。
「さてと、帰る前にやってしまうか――っ!」
午後五時三十分。私は気合を入れつつ、部屋の片隅に置かれた段ボール箱をデスクに移動させる。
中には封筒や小包が無造作に詰め込まれており、それらを開封し、中を確認していく。
ここ、ガイスト編集部には毎月大量の曰く憑きの何かが届く。これらの中から雑誌に掲載できそうなものを見繕い、担当編集者に渡すのが新人である私の業務の一つ。
「室世って良いチョイスするよな」って先輩達に好評だったりする。
そりゃそうよ。
本 物 を 渡 し て る ん だ も の。
まずは届いたものの中から仕分けのしやすい心霊写真のみを集め、一枚ずつ確認していく。
一枚目。『 写り込んだオーブ 』
(……ただのホコリ)
二枚目。『 樹木に写った顔 』
(……ただの見間違い)
三枚目。『 足を掴む手 』
「――――っっ!」
ゾクリと背筋に悪寒が走る。
(これは…本物…ね)
用意しておいた空箱に入れる。
四枚目。『 井戸から出る貞…… 』
「ふぁっ!!」
ズシリと肩が重くなる。
(なんで一緒に送られてくるのよ!!)
――とまぁこんな感じに、送られてきた物に本物が混ざってると体が反応する。
っていうか憑かれる。
(うう……大丈夫、これは低級霊だからまだ耐えられる)
少し気持ち悪さを感じるが、グッと我慢する。
(あと二、三体は……いける!)
栄慶さんに出会って少し余裕が出てきたのか、これぐらいでは動じない私がいる。何かあっても彼が助けてくれる……そう思って安心するんだろうな。
悪の手先から私を守ってくれる『白馬の王子様』、そんなイメージが頭を過る。
………。
………。
――…ん? いや、守ってくれてないよね?
毎回祓う代わりに、掃除とか掃除とか掃除とか? うん、掃除ばっかやらされてる。
(私 は 小 間 使 い か っ !!)
――……、現実に引き戻されたところで作業を再開する。
四枚目を箱に入れ、五枚目、六枚目……
そして……二十四枚目。
「あれ? この写真……」
夜、ライトで照らしながら撮ったと思われる廃墟の写真。
この建物……どこかで見た気がする。
(けい……そう……かい?)
掠れて読みにくいが、『恵奏会 病院』と門の横に書いてあるように見える。
私は人差し指をこめかみに当て、記憶の糸を手繰り寄せる。
――――……、思い出した。たしか十年くらいに前に閉鎖になってから取り壊されないまま放置されている、三階建ての民間病院だ。
(確か斎堂寺の近くだったはず……)
その建物の写真には、二階の端……病室だと思われる窓に、人のような形をした白い影がこちらを監視するかのように写っていた。
「――っっ!!」
一瞬、悪寒が全身を駆け巡った。
これ、本物だ。しかも低級霊じゃない。
私はすぐに箱へと移す。が、なぜか無性に気になってしまい、恐る恐る取り出し再度確認しようした、その瞬間。
「わっ!!」
「ひゃあっ!!」
不意に耳元で叫ばれ、思わず変な声が出てしまった。
(こ、こんな事をするのはーっっ!)
「壮真編集長っ!!」
私はクルリと椅子を回転させ、叫ぶ。
「あははっ、ごめんごめ~ん。驚かせちゃったかねぇ~」
(いや、驚かせたんでしょうが!!)
悪びれた様子もなく笑うこの男性は、ガイスト編集長、壮真 貴一朗 、43歳、独身。
「さてと、帰る前にやってしまうか――っ!」
午後五時三十分。私は気合を入れつつ、部屋の片隅に置かれた段ボール箱をデスクに移動させる。
中には封筒や小包が無造作に詰め込まれており、それらを開封し、中を確認していく。
ここ、ガイスト編集部には毎月大量の曰く憑きの何かが届く。これらの中から雑誌に掲載できそうなものを見繕い、担当編集者に渡すのが新人である私の業務の一つ。
「室世って良いチョイスするよな」って先輩達に好評だったりする。
そりゃそうよ。
本 物 を 渡 し て る ん だ も の。
まずは届いたものの中から仕分けのしやすい心霊写真のみを集め、一枚ずつ確認していく。
一枚目。『 写り込んだオーブ 』
(……ただのホコリ)
二枚目。『 樹木に写った顔 』
(……ただの見間違い)
三枚目。『 足を掴む手 』
「――――っっ!」
ゾクリと背筋に悪寒が走る。
(これは…本物…ね)
用意しておいた空箱に入れる。
四枚目。『 井戸から出る貞…… 』
「ふぁっ!!」
ズシリと肩が重くなる。
(なんで一緒に送られてくるのよ!!)
――とまぁこんな感じに、送られてきた物に本物が混ざってると体が反応する。
っていうか憑かれる。
(うう……大丈夫、これは低級霊だからまだ耐えられる)
少し気持ち悪さを感じるが、グッと我慢する。
(あと二、三体は……いける!)
栄慶さんに出会って少し余裕が出てきたのか、これぐらいでは動じない私がいる。何かあっても彼が助けてくれる……そう思って安心するんだろうな。
悪の手先から私を守ってくれる『白馬の王子様』、そんなイメージが頭を過る。
………。
………。
――…ん? いや、守ってくれてないよね?
毎回祓う代わりに、掃除とか掃除とか掃除とか? うん、掃除ばっかやらされてる。
(私 は 小 間 使 い か っ !!)
――……、現実に引き戻されたところで作業を再開する。
四枚目を箱に入れ、五枚目、六枚目……
そして……二十四枚目。
「あれ? この写真……」
夜、ライトで照らしながら撮ったと思われる廃墟の写真。
この建物……どこかで見た気がする。
(けい……そう……かい?)
掠れて読みにくいが、『
私は人差し指をこめかみに当て、記憶の糸を手繰り寄せる。
――――……、思い出した。たしか十年くらいに前に閉鎖になってから取り壊されないまま放置されている、三階建ての民間病院だ。
(確か斎堂寺の近くだったはず……)
その建物の写真には、二階の端……病室だと思われる窓に、人のような形をした白い影がこちらを監視するかのように写っていた。
「――っっ!!」
一瞬、悪寒が全身を駆け巡った。
これ、本物だ。しかも低級霊じゃない。
私はすぐに箱へと移す。が、なぜか無性に気になってしまい、恐る恐る取り出し再度確認しようした、その瞬間。
「わっ!!」
「ひゃあっ!!」
不意に耳元で叫ばれ、思わず変な声が出てしまった。
(こ、こんな事をするのはーっっ!)
「壮真編集長っ!!」
私はクルリと椅子を回転させ、叫ぶ。
「あははっ、ごめんごめ~ん。驚かせちゃったかねぇ~」
(いや、驚かせたんでしょうが!!)
悪びれた様子もなく笑うこの男性は、ガイスト編集長、