母と子 其の六

文字数 1,523文字

 彼が法衣姿で来た時点で気づけばよかった。




 栄慶さんにとって私はイタコ代わりのような存在でしかない。




 私の水着を見たいわけでも恋人同士みたいに楽しみたいわけでもなかったのよ!!



(〝私を妬かせるんじゃない〟とか言っときながら、私はその程度な存在なわけねっ)




 だったらいいですよ!




 私は私で楽しみますからっ!!





 浜辺でカッコいい男性にナンパされて、一緒に泳いだり楽しくお喋りしたりして、ひと夏の思い出作りますよ!!





 そうよっ





(男なんて栄慶さんだけじゃないんだから――――っ)
 そう心の中で叫びながら、私は浜辺へと続く階段を駆け下りて行った。









 砂地に到着すると、チラホラと女性に声を掛ける男性達が目に入る。
 私は浜辺のどこからでも目につく場所に立ち、誘いを待つ事にした。
(さぁ、私は一人よっ、どこからでもかかって来なさい!!




 腰に手を当て仁王立ち。




 じゃなくて、右手を腰に当てモデル立ちをする。





 ――――






 ――――――






 ――――――――









 ――――5分後。
(なんで誰も声掛けてこないのよ――――っっ!!



『ねぇねぇ一緒に泳がない?』



『君、可愛いね。一緒にあっち行こうよ』



『お姉さ~ん、俺らと話しよ~』



 周辺ではナンパ目的の男達が、拒否る女の子達をものともせず声を掛け続けている。





 なのに……





(私の所には来ないって、どういう事よ――――っっ)



 年齢、年齢なの!?



 24歳はもうおばさんなのっ!?



 いや、そりゃもうすぐアラサーと言われる歳に入るけどっ



 可愛くもないけどっ



 でも……




(一人ぐらい声掛けてくれてもいいじゃない――――っっ)
 ナンパに応えた女の子達の楽しそうな声が、さらに私の心をえぐる。




 若い。




 細い。




 水着も……




 凄く可愛い。





(ううう……)
 勝負になんない……。
 現実を突き付けられた私は、肩を落としながらトボトボと今来た道を戻り始める。
(荷物……栄慶さんに押し付けてきちゃったのに……)
 きっと馬鹿にされる。
 馬鹿返しされる~~~~~~~っ。
(どうしよ~~)
 砂地に足を取られつつ、フラフラと考えをめぐらせながら歩いていると、急に前方から女の子達の黄色い声が聞こえ始めた。




(うっるさいっ! 一体なんの騒ぎよ!!
 眉間に皺を寄せながら確認すると、若い女の子達に囲まれた、一人の長身の男性の姿が目に飛び込んできた。
「――…え?」
(んなっ!?




 あの頭……




 じゃない、顔はっ




(栄慶さん!?
 ナンパ目的の男達も唖然とする中、女の子達に積極的にアプローチを掛けられているのは栄慶さんに間違いなかった。



『お一人ですかぁ~』



『一緒に泳ぎましょうよぅ~』



『や~んっ、カッコいい~っ』



 遠目に見る他の女性達も、年齢問わず彼に釘付けになっているのが分かる。




 私も同じ。




 彼から目が離せなかった。





 水着姿の栄慶さんは、何と言うか…艶っぽい。





 程よく割れた腹筋に、厚い胸板。





 普段の姿からは想像できないような、外人モデル並みに引き締まった身体。





 まさに脱いだら凄いんです状態。




 しかも……




 ビキニ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

室世癒見【むろせゆみ】24歳 

主人公

憑かれやすい女性編集者

永見栄慶【ながみえいけい】27歳

御祓いを得意とするインテリ坊主

壮真貴一朗【そうまきいちろう】43歳

ナルシストタイプな敏腕編集長

匡木圭吾【まさきけいご】

第二章登場人物

洋食亭サン・フイユ現オーナー

間柴一【ましばはじめ】 38歳

第三章登場人物

ガイスト編集部カメラマン

一条史真【いちじょうししん】27歳

第四章登場人物

宗國寺副住職

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み