母と子 其の二
文字数 995文字
「海だ――っ」
小さな駅の改札口を出た瞬間、目の前に広がる海景色。
「栄慶さんっ、海ですよ! 海!!」
「見ればわかる」
淡々とした口調で答える彼を尻目に、小走りで駅の外へと駆け出す。
「はーっ……、気持ちいい~っ」
両手を広げ、心地よい潮風を全身で受け止める。
「……暑いな」
少し遅れて隣に立った栄慶さんが、ポツリと呟く。
(そりゃあ、その恰好じゃ暑いわよね?)
彼は袈裟を纏った姿で、顔色一つ変えることなく佇んでいる。
いつもと変わらない格好……と思いきや、夏用らしい。
法衣が若干透けているのが分かる。
さすがにそれでも中に白衣を着てるわけだから、それなりに暑そう……。
って、そんな事よりっ
(海に来てまでその恰好なの!?)
絶対私服で来ると思ってたのにっ!
普段着で行くと言ってたはずなのにっ!
どんな格好で来るのかイメージを膨らませてたのにっ!
待ち合わせ場所に彼が来た瞬間、私はガクリと肩を落としたのだった。
(そうだよねぇ~、法衣が栄慶さんにとっての普段着だよねぇ~)
Tシャツにデニムだけでもカッコいいと思うんだけどなぁ……。
そんな彼の姿を脳裏に思い浮かべながら、私は頬を緩める。
「どうかしたのか?」
「えっ!? な、何でもないですよ?」
「人が少なくて良かったなぁ~って、思っただけですっ」
ハッと我に返り、慌てて辺りを見渡しながら誤魔化した。
海開きが行われたと言っても、夏休み前の平日。
人はまだ少ない方だ。
そんな中、なぜこんな所にお坊さんがいるのかと、改札を出る他の乗客達は皆神妙な面持ちで彼の横を通り過ぎて行く。
それだけじゃない。
一部の女の子達は横目で顔を確認するや否や、頬を赤らめ少し距離を取ってから小声でキャッキャとはしゃいでいる。
長身で整った顔、凛とした雰囲気。
中指で眼鏡のブリッジを押し上げる仕草が、何とも知的で大人の色気を感じさせる。
普段見慣れている私でさえ、思わず彼の横顔に魅入ってしまう。
そんな私の視線に気づいたのか、彼はニヤリと笑ってこちらを見た。
「機嫌は直ったようだな」
「――!?」
(う~~っ)
私は口を尖らせながら顔を背ける。
ここまで来る電車の中、私はちょっぴり機嫌が悪かったのかもしれない。
だって……。
近いんだもの。
小さな駅の改札口を出た瞬間、目の前に広がる海景色。
「栄慶さんっ、海ですよ! 海!!」
「見ればわかる」
淡々とした口調で答える彼を尻目に、小走りで駅の外へと駆け出す。
「はーっ……、気持ちいい~っ」
両手を広げ、心地よい潮風を全身で受け止める。
「……暑いな」
少し遅れて隣に立った栄慶さんが、ポツリと呟く。
(そりゃあ、その恰好じゃ暑いわよね?)
彼は袈裟を纏った姿で、顔色一つ変えることなく佇んでいる。
いつもと変わらない格好……と思いきや、夏用らしい。
法衣が若干透けているのが分かる。
さすがにそれでも中に白衣を着てるわけだから、それなりに暑そう……。
って、そんな事よりっ
(海に来てまでその恰好なの!?)
絶対私服で来ると思ってたのにっ!
普段着で行くと言ってたはずなのにっ!
どんな格好で来るのかイメージを膨らませてたのにっ!
待ち合わせ場所に彼が来た瞬間、私はガクリと肩を落としたのだった。
(そうだよねぇ~、法衣が栄慶さんにとっての普段着だよねぇ~)
Tシャツにデニムだけでもカッコいいと思うんだけどなぁ……。
そんな彼の姿を脳裏に思い浮かべながら、私は頬を緩める。
「どうかしたのか?」
「えっ!? な、何でもないですよ?」
「人が少なくて良かったなぁ~って、思っただけですっ」
ハッと我に返り、慌てて辺りを見渡しながら誤魔化した。
海開きが行われたと言っても、夏休み前の平日。
人はまだ少ない方だ。
そんな中、なぜこんな所にお坊さんがいるのかと、改札を出る他の乗客達は皆神妙な面持ちで彼の横を通り過ぎて行く。
それだけじゃない。
一部の女の子達は横目で顔を確認するや否や、頬を赤らめ少し距離を取ってから小声でキャッキャとはしゃいでいる。
長身で整った顔、凛とした雰囲気。
中指で眼鏡のブリッジを押し上げる仕草が、何とも知的で大人の色気を感じさせる。
普段見慣れている私でさえ、思わず彼の横顔に魅入ってしまう。
そんな私の視線に気づいたのか、彼はニヤリと笑ってこちらを見た。
「機嫌は直ったようだな」
「――!?」
(う~~っ)
私は口を尖らせながら顔を背ける。
ここまで来る電車の中、私はちょっぴり機嫌が悪かったのかもしれない。
だって……。
近いんだもの。