親友 其の十一

文字数 1,106文字

 中に入ると、玄関から近い部屋に立派な祭壇が設けられており、沢山の花と共に少し若い頃の宗近くんの遺影が飾られていた。
「あーあ。ウチが神社でもタダじゃないのに、こんな豪華にしちゃって」
「家族が亡くなったんだもの。宗近くんを安らかに見送ってあげたいって思っての事だよ」
「安らかにねぇ……」
 二人で祭壇を眺めながら話していると、一人の初老の男性が部屋に入ってきた。
 濃い灰色の装束(しょうぞく)を着たその男性は、眉間に皺を寄せながら私達の間をすり抜け、祭壇の前に座った。
「もしかして……お父さん?」
「そう。んで、あれが弟の正近」
 後から部屋に入ってきた、お父さんによく似た面影の、スーツ姿の若い男性。
 ガッチリした体系で、あまり宗近くんに似てないなと思っていると、隣で彼がプッと笑った。
「似てないでしょ。俺たぶん母さん似だと思う。んで正近は父さんにソックリ」
「だからかな……子供の頃から父さんは正近の方ばっかかまってた」
「俺も気を引こうとしてイタズラとか悪さばっかしてたけど……父さん、俺には全然怒らないんだ」
「あまり人に迷惑かけるな、って淡々と言うだけ。母さんが死んでからはそれすらも言わなくなったっけ」
「お母さん、いつ亡くなったんですか?」
「俺が小学校2年の時。病気ですぐに逝っちゃった」
 そんなに幼いころに……。
 じゃあ、お父さんは男手ひとつで二人を育てたのね。
 でもどうして宗近くんだけそんな態度を取ってたんだろう。
 祭壇の前に座るお父さんは、ずっと宗近くんの遺影を見つめ続けている。
 その後ろ姿がとても悲しそうで……彼に愛情がなかったとは思えなかった。
「まぁこれで、親戚から出来の悪い長男が跡継いだらって心配される事もなくなったわけだし、結果オーライって感じ?」
「そんな事っ」
 私は否定しようと口を開くと……
「なぁ父さん……」
 と、私達の会話を遮るようにして、正近くんが口を開いた。
 彼はお父さんの斜め後ろ座り、前を向きながら言葉を続ける。
「父さん、俺……神主の資格取るのやめようと思うんだ」
 私と宗近くんは言葉を失う。二人は私達に背を向けて座っているため、今どんな表情をしているのか分からない。
 そして正近くんが言ったその言葉に対して、お父さんは何も答えない。
 ――少し間を置いてから、正近くんは言葉を続けた。
「俺さ、知ってるんだ。父さんが兄ちゃんを避けてた理由」
「母さんが遺伝子性の病気持ってて発症すると助からないってこと」
「そのせいで死んだってこと」






「そして……」





「兄ちゃんもその遺伝子持ってたってこと」
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登場人物紹介

室世癒見【むろせゆみ】24歳 

主人公

憑かれやすい女性編集者

永見栄慶【ながみえいけい】27歳

御祓いを得意とするインテリ坊主

壮真貴一朗【そうまきいちろう】43歳

ナルシストタイプな敏腕編集長

匡木圭吾【まさきけいご】

第二章登場人物

洋食亭サン・フイユ現オーナー

間柴一【ましばはじめ】 38歳

第三章登場人物

ガイスト編集部カメラマン

一条史真【いちじょうししん】27歳

第四章登場人物

宗國寺副住職

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