親友 其の八

文字数 1,468文字

「な……ななな何でっ、私の身体がそこにっ」
 状況が呑み込めず、私は掴まれた手とは反対の手で指差しながら声を震わせる。
 そんな私の姿を見て彼は言った。


「いやー……つい起こそうと

 肩 叩 い た ら 外 れ ち ゃ っ て」


(脱臼かっ!!



 つ、つまり……今の私は身体から魂が抜け出した状態って事!?
「も……もど……早く戻らないと……」
「えー、いいじゃん、せっかく抜けたんだから楽しもうよ?」
 彼はそう言うと、私の手を引っ張り身体を浮かせ始めた。
「え……ちょっ」
「いや――っ、栄慶さ――――んっ!!

 私は抵抗する間もなく、そのままお寺の外まで連れて行かれてしまった。
「いやーっ、飛んでる飛んでるっ、落ちる落ちる~~~っ!!
 私はパニック状態のまま、叫びながら彼に引っ張られ続ける。
 そして町全体を見渡せる高さまでくると、彼はピタリと止まった。
「俺達身体ないんだから大丈夫だって。ほら見て見て綺麗でしょ?」
 明かりが灯された夜の街を指差し、彼は楽しそうに笑う。
「綺麗でしょ、ってこんな状態でそんなこと思えるわけないじゃないですかっ!! 早く帰して下さいっ!」
 もしこのまま身体に戻れなくなったら……考えるだけでゾッとする。
「大丈夫だってばー。もし戻れなくなるんだったらエージのやつ、何が何でも止めようとするでしょ?」
「う……」
 確かに。
 栄慶さんは私が連れ去られていくのを黙って見ていた。
 お寺の方を目を凝らし見てみるが、微かに明かりが灯された敷地内に人影は見えない。
「だからきっと大丈夫だって。ね? ちょっとだけ俺に付き合ってよ」
「で……でも……」
「ね? ……だめ?」
「うう……」
 顔を傾けながら笑みを浮かべる彼の表情が、なぜだか一瞬寂しそうに見えて私は困惑する。
 心なしか手にも力が入ってる感じがした。
「――……」
「――~~っ」
「ちょっとだけ……ですからね」
 同情心からだったのか、彼のその表情に胸を締め付けられた私は、つい同意してしまった。
 そんな私の言葉に、彼は「うんっ!」と子供のような無邪気な笑みを見せた。

「あ、俺のこと宗近って呼んでね? 敬語はやめてよ、俺らあんま歳変わんないでしょ?」
 聞くと彼は私より1コ上の25歳だという。
 でもさすがに初対面で呼び捨てにするわけにもいかず、とりあえず〝宗近くん〟と呼ぶことにした。

(でも栄慶さんって確か27のはず、同級生ってわけでもないのね)
 そんな事を考えながら、私達は住宅街から繁華街へと移動する。
(何か変な感じ……)
 これが幽体離脱ってものなのだろうか……。
 頬に風が当たる感覚もあるし、飲食店に近づいてくると匂いもする。
 飛んでること以外、生きてる時とあまり変わらないなと思っていると
「美味しそうな匂いするね。お腹空いてきちゃった」
 そう言って、彼はテラス席のあるレストランの上空で止まった。
(幽霊がお腹空くってイメージないんだけど……それでも食べられないって辛いよね……)
 テラスにはカップルと思わしき若い男女が、美味しそうにお肉を食べながら談笑している。
 そんな姿を彼はしばらく凝視する。


「宗近くん……、私達食べれないし別の場所行こっか」
 努めて明るく声を掛けながら移動しようとすると、彼は私の手を離し、下へと降りていく。
「む、宗近くん?」
「見てて?」



 彼は向かい合うカップルに近づくと



 男性の身体に向かって飛び込んだ。
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登場人物紹介

室世癒見【むろせゆみ】24歳 

主人公

憑かれやすい女性編集者

永見栄慶【ながみえいけい】27歳

御祓いを得意とするインテリ坊主

壮真貴一朗【そうまきいちろう】43歳

ナルシストタイプな敏腕編集長

匡木圭吾【まさきけいご】

第二章登場人物

洋食亭サン・フイユ現オーナー

間柴一【ましばはじめ】 38歳

第三章登場人物

ガイスト編集部カメラマン

一条史真【いちじょうししん】27歳

第四章登場人物

宗國寺副住職

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