母と子 其の十三

文字数 958文字

 暗闇の中、〝人らしきモノ〟が這いずりながらこちらに向かってきている。
 さっきから聞こえていたのは、赤い絨毯に身体が擦れる音だったのだ。
(に、逃げなきゃ)
 そう思うのに、恐怖で逃げるタイミングが見つけられない。



〝ソレ〟は一定のペースを保ちながらこちらに向かってきており、私の脳裏に危険信号が鳴り響く。
(い、いやっっ、近づいてこないでよっ)
(お願い来ないでっっ)
 声を出すと襲ってきそうで、心の中で何度も叫ぶ。



 かろうじて廊下の明かりが保たれている場所に近づくにつれ、その全貌が明らかになっていった。



 ――――女の人。



 あれ……女の人だ。




 白いワンピースを着た……女の人。





 だけど長い黒髪が顔全体を覆っており、表情は確認できない。
 と、思った瞬間。
 覆われた黒髪のわずかな隙間からギョロリと眼球が覗いた。


『 ――…… 』
「ひっ」
 微かに悲鳴が漏れる。
 その声の場所を確認するかのように、ソレは左右に顔を傾けると、こちらに距離を縮めてきた。
(つ、捕まったら殺されるっ!!
 慌ててこの場から逃げようと足に力を入れるが、身体は金縛りにあったかのように微動だにしない。
 距離がさらに縮まる。
 爪で床をひっかくようにして、ズルリズルリと音を立てながらこちらに向かってくる。
『 あ゛…あ゛……で 』
「――っっ!!
 赤い眼を見開きながら、ソレは濁った声を出し始める。
『 あ゛……の……ア゛い゛……た゛ぃ゛い゛ 』
(いやぁっ!! 何なのよっ、来ないでよっっ!!
 私は必死に身体をねじ曲げながら逃げようと試みる。
 ――が、その気配を察したのかソレは速度を速め、瞬く間に距離を縮めて左足首をガッと掴んできた。
「ひっ! いやぁぁぁぁぁ――っっ!!
 食い込む爪の痛みと恐怖で私は高々と叫ぶ。
『 あ゛……ア゛わ゛で……ア゛わ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ 』
「いやぁ――っ!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
『 あ゛ぁ゛ア゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛―― 』
「離してっ!! 離してぇぇぇぇぇっ!!
 パニック状態の中、ひたすら叫びながら足を上下に蹴るように動かす。



 そして微かに痛みが消えたと同時に、私は部屋の方へと駆け出した。
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登場人物紹介

室世癒見【むろせゆみ】24歳 

主人公

憑かれやすい女性編集者

永見栄慶【ながみえいけい】27歳

御祓いを得意とするインテリ坊主

壮真貴一朗【そうまきいちろう】43歳

ナルシストタイプな敏腕編集長

匡木圭吾【まさきけいご】

第二章登場人物

洋食亭サン・フイユ現オーナー

間柴一【ましばはじめ】 38歳

第三章登場人物

ガイスト編集部カメラマン

一条史真【いちじょうししん】27歳

第四章登場人物

宗國寺副住職

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