親友 其の十六
文字数 1,401文字
「む、宗近……くん?」
握られた手首は、顔の両側に押し付けられて動かせない。
初めて彼を見たときもこの恰好だった。
だけど今、私の目の前に居るのは栄慶さんに憑依した宗近くんで……。
「――ねぇ、エージとどこまでいったの? キスはもうした? その先は?」
「な、何言って……」
「キスはしたよね、何回?」
「――っ」
思わず言葉に詰まると、宗近くんは「そう、何度もしたんだ?」と目を細める。
「だったらキスくらいしてもいいよね。これエージの身体だし、この口もエージのものだから何も変わらないよ」
「エージにされたと思えばいいから」
「そ、そんなこと思えるはずっ」
「――……癒見」
「――っ!?」
宗近くんは急に声のトーンを変える。
「私は癒見としたい。癒見を感じたい、感じさせたい……嫌か?」
まるで栄慶さんが喋っているかのように、彼は同意を求めてくる。
「――っっ!!」
「声も……匂いも……私だろう?」
屈むように顔を近づけられ、いつも纏う彼の香りが鼻腔をくすぐる。
間近で感じた栄慶さんの存在に……私の身体はゾクリと震え、熱を持ち始めた。
だけど……
「駄目っ!!」
「――!?」
「駄目なの……栄慶さんじゃないと駄目なのっ」
「栄慶さんにだったら何されてもいい。だけど今は宗近くんだから駄目っ」
「ユミちゃん……」
「見た目じゃないの。私は栄慶さんの声も匂いも好きだよ。だけど一番好きなのは……心だよ」
「――……」
目を見開き、固まったように動かなくなった彼に向って、私は言葉を続ける。
「私は栄慶さんの心を感じるだけで幸せな気持ちになれるの」
「キスだってそう……。栄慶さんにキスしてもらうの凄く嬉しいよ? だけどそれは栄慶さんの心があるから……栄慶さんの優しさや思いやりが伝わってくるから、私の心は満たされるの」
「満たされて……返してあげたくなるの。私も栄慶さんの心を温めてあげたいって思うの」
それが今、栄慶さんに対する私の好きだって気持ち。
以前、彼は言ってくれた。
『お前は私の心を温めてくれる』
その言葉がどれほど嬉しかったか……こんな私でも少しは彼の支えになれるのかなって思えた。
だからこそ……もっと温めてあげたいの。
心も……身体も……。
「宗近くんだって知ってるはずだよ? 子供の頃からずっと一緒にいたんだから分かってるはずだよ、栄慶さんのこと……」
「――……知ってるよ」
宗近くんが口を開く。
「エージと一緒にいると、いつも嫌なこと忘れられた」
栄慶さんと宗近くんの顔が重なって見え始める。
きっとこれは彼の本心……。
「優しい言葉を掛けてくれなくても、エージの側にいると安心するんだ。俺は大丈夫だって心から笑えたんだ」
「だけど俺……もうすぐあの世へ逝くんだ。もう人の温もりさえ分からなくなるんだ、エージの心も……ユミちゃんの心も……もう俺には感じられなくなるんだっ」
宗近くんは切羽詰まったような険しい顔をして私を凝視する。
手首を掴む彼の手も震えていた。
「宗近くん……」
「だったら最後にっ、心が無くてもいいからっ! ユミちゃんの温もり……俺に分けてよっ!!」
手首に強い力が加わり、宗近くんは口を近づける。
「――っ」
(栄慶さんっ)
私は咄嗟に顔を背け、目を閉じた。
握られた手首は、顔の両側に押し付けられて動かせない。
初めて彼を見たときもこの恰好だった。
だけど今、私の目の前に居るのは栄慶さんに憑依した宗近くんで……。
「――ねぇ、エージとどこまでいったの? キスはもうした? その先は?」
「な、何言って……」
「キスはしたよね、何回?」
「――っ」
思わず言葉に詰まると、宗近くんは「そう、何度もしたんだ?」と目を細める。
「だったらキスくらいしてもいいよね。これエージの身体だし、この口もエージのものだから何も変わらないよ」
「エージにされたと思えばいいから」
「そ、そんなこと思えるはずっ」
「――……癒見」
「――っ!?」
宗近くんは急に声のトーンを変える。
「私は癒見としたい。癒見を感じたい、感じさせたい……嫌か?」
まるで栄慶さんが喋っているかのように、彼は同意を求めてくる。
「――っっ!!」
「声も……匂いも……私だろう?」
屈むように顔を近づけられ、いつも纏う彼の香りが鼻腔をくすぐる。
間近で感じた栄慶さんの存在に……私の身体はゾクリと震え、熱を持ち始めた。
だけど……
「駄目っ!!」
「――!?」
「駄目なの……栄慶さんじゃないと駄目なのっ」
「栄慶さんにだったら何されてもいい。だけど今は宗近くんだから駄目っ」
「ユミちゃん……」
「見た目じゃないの。私は栄慶さんの声も匂いも好きだよ。だけど一番好きなのは……心だよ」
「――……」
目を見開き、固まったように動かなくなった彼に向って、私は言葉を続ける。
「私は栄慶さんの心を感じるだけで幸せな気持ちになれるの」
「キスだってそう……。栄慶さんにキスしてもらうの凄く嬉しいよ? だけどそれは栄慶さんの心があるから……栄慶さんの優しさや思いやりが伝わってくるから、私の心は満たされるの」
「満たされて……返してあげたくなるの。私も栄慶さんの心を温めてあげたいって思うの」
それが今、栄慶さんに対する私の好きだって気持ち。
以前、彼は言ってくれた。
『お前は私の心を温めてくれる』
その言葉がどれほど嬉しかったか……こんな私でも少しは彼の支えになれるのかなって思えた。
だからこそ……もっと温めてあげたいの。
心も……身体も……。
「宗近くんだって知ってるはずだよ? 子供の頃からずっと一緒にいたんだから分かってるはずだよ、栄慶さんのこと……」
「――……知ってるよ」
宗近くんが口を開く。
「エージと一緒にいると、いつも嫌なこと忘れられた」
栄慶さんと宗近くんの顔が重なって見え始める。
きっとこれは彼の本心……。
「優しい言葉を掛けてくれなくても、エージの側にいると安心するんだ。俺は大丈夫だって心から笑えたんだ」
「だけど俺……もうすぐあの世へ逝くんだ。もう人の温もりさえ分からなくなるんだ、エージの心も……ユミちゃんの心も……もう俺には感じられなくなるんだっ」
宗近くんは切羽詰まったような険しい顔をして私を凝視する。
手首を掴む彼の手も震えていた。
「宗近くん……」
「だったら最後にっ、心が無くてもいいからっ! ユミちゃんの温もり……俺に分けてよっ!!」
手首に強い力が加わり、宗近くんは口を近づける。
「――っ」
(栄慶さんっ)
私は咄嗟に顔を背け、目を閉じた。