Curry du père 其の十四
文字数 1,685文字
AM8時半すぎ……。
本堂の入口に到着した私は、扉の前でしばらく立ち尽くしていた。
(ただお礼を言いに来ただけ……)
だだそれだけ……ただお礼を……
同じ言葉を繰り返しながら、扉を開けようと手を伸ばしては止めるの繰り返し。
(もぅっ!)
編集長があんな事言うから、変に意識しちゃってるじゃないっ。
私は頭を左右に振って、意識するなと自分に言い聞かせる。
(でも……)
編集長の言った事が本当なのか、確認したいとも思うわけで……。
「栄慶さん……」
ポツリと彼の名を呟いてみる。
「何だ?」
「ふぇっ!?」
バッと振り向くと、すぐ後ろに彼がいた。
「い、いつの間に……後ろに……」
「庫裏 からお前の姿が見えたんで来てみたんだが?」
※くり:住居部分の事
(~~~~っ)
って事は、さっきからずっと見られてたわけ!?
恥ずかしさのあまり下を向いて顔を隠す。
「今日は珍しく大人しいじゃないか」
いつもの威勢はどうした、とからかうような彼の声。
その声ですら意識してしまう。
「あ、あの……私」
「なんだ?」
「――~~~っ」
(――駄目、やっぱり聞けないっ)
そもそも私は栄慶さんの事どう思ってるのよっ
栄慶さんの事……好き……とか……そういう……
で、でもこの前ドキドキしたのは……吊り橋効果ってやつで……
でも、だったらそれ以外は……だから……つまり……
(あ、頭がおかしくなりそうっ)
「何なんだ一体、用があって来たんじゃないのか?」
「え? あ、はいっ!」
そうだった。こんな事してる場合じゃないんだった。
ひとまず編集長が言っていた事は置いといて、慌てて本題へと入った。
「あ、あの、私……これからサン・フイユに行って、圭吾さんにお父さんの事、言おうと思うんです」
「お前、まだ……」
彼の表情が一瞬にして曇るのが分かった。
それでも私は必死に今の気持ちを伝える。
「決めたんですっ。今、私が出来る事をしようって」
「それで結果が駄目だったとしても私はそれを受け止めます。圭吾さんに嫌われてもいいです」
「私は少しでもお父さんを思い出すキッカケを作ってあげたいんですっ」
彼は眉間に皺を寄せながら私の言葉を聞いていた。
そして言い終わると、短いため息をついて口を開いた。
「分かった。お前がそうしたいならそうすればいい」
「栄慶さん……」
「お前の気持ちは分かった。――だが、私はこれから出かけなければいけないんだ」
突き放したようなその言葉に、ズキリと胸が痛む。
でも仕方がない、私が勝手にする事。栄慶さんには関係ない。
涙が出そうになるのをグッと堪えて笑顔を見せる。
「昨日はありがとうございました。じゃあ私、もう行きますね」
ペコリと頭を下げ、足早に彼の横を通り過ぎようとすると、グッと腕を掴まれた。
「父親の魂はもう長くあの場に留まってはいられないだろう。消えかけている魂を視る事はお前でも難しいはずだ」
「え?」
オーナーの魂が消えかけている……?
(だからあの時、一瞬しか視る事ができなかったの?)
それじゃあ私がこれからしようとしてる事って……。
「だから、これを持って行け」
「――!? これって……」
ジャラリと音を立てて差し出されたのは……数珠。
いつも栄慶さんが持ってる、黒くて長い数珠だ。
「強い念を込めてある。これを持っていけば消えかけた魂でも見つけられるだろう」
「あとはお前次第だ」
「栄慶さん……」
どうしてそんなに優しくしてくれるんですか……。
どうして私の我儘に付き合ってくれるんですか……。
(栄慶さんっ栄慶さんっ)
心の中で何度も叫びながら、受け取った数珠をギュッと胸元で握りしめる。
「ただし、きっちり礼はしてもらうからな」
彼はそう言って優しい笑みを浮かべる。
「は、はいっ!終わったら掃除でも何でもしますか─……んっ!」
次の瞬間、グッと腰を掴まれ口を塞がれた。
本堂の入口に到着した私は、扉の前でしばらく立ち尽くしていた。
(ただお礼を言いに来ただけ……)
だだそれだけ……ただお礼を……
同じ言葉を繰り返しながら、扉を開けようと手を伸ばしては止めるの繰り返し。
(もぅっ!)
編集長があんな事言うから、変に意識しちゃってるじゃないっ。
私は頭を左右に振って、意識するなと自分に言い聞かせる。
(でも……)
編集長の言った事が本当なのか、確認したいとも思うわけで……。
「栄慶さん……」
ポツリと彼の名を呟いてみる。
「何だ?」
「ふぇっ!?」
バッと振り向くと、すぐ後ろに彼がいた。
「い、いつの間に……後ろに……」
「
※くり:住居部分の事
(~~~~っ)
って事は、さっきからずっと見られてたわけ!?
恥ずかしさのあまり下を向いて顔を隠す。
「今日は珍しく大人しいじゃないか」
いつもの威勢はどうした、とからかうような彼の声。
その声ですら意識してしまう。
「あ、あの……私」
「なんだ?」
「――~~~っ」
(――駄目、やっぱり聞けないっ)
そもそも私は栄慶さんの事どう思ってるのよっ
栄慶さんの事……好き……とか……そういう……
で、でもこの前ドキドキしたのは……吊り橋効果ってやつで……
でも、だったらそれ以外は……だから……つまり……
(あ、頭がおかしくなりそうっ)
「何なんだ一体、用があって来たんじゃないのか?」
「え? あ、はいっ!」
そうだった。こんな事してる場合じゃないんだった。
ひとまず編集長が言っていた事は置いといて、慌てて本題へと入った。
「あ、あの、私……これからサン・フイユに行って、圭吾さんにお父さんの事、言おうと思うんです」
「お前、まだ……」
彼の表情が一瞬にして曇るのが分かった。
それでも私は必死に今の気持ちを伝える。
「決めたんですっ。今、私が出来る事をしようって」
「それで結果が駄目だったとしても私はそれを受け止めます。圭吾さんに嫌われてもいいです」
「私は少しでもお父さんを思い出すキッカケを作ってあげたいんですっ」
彼は眉間に皺を寄せながら私の言葉を聞いていた。
そして言い終わると、短いため息をついて口を開いた。
「分かった。お前がそうしたいならそうすればいい」
「栄慶さん……」
「お前の気持ちは分かった。――だが、私はこれから出かけなければいけないんだ」
突き放したようなその言葉に、ズキリと胸が痛む。
でも仕方がない、私が勝手にする事。栄慶さんには関係ない。
涙が出そうになるのをグッと堪えて笑顔を見せる。
「昨日はありがとうございました。じゃあ私、もう行きますね」
ペコリと頭を下げ、足早に彼の横を通り過ぎようとすると、グッと腕を掴まれた。
「父親の魂はもう長くあの場に留まってはいられないだろう。消えかけている魂を視る事はお前でも難しいはずだ」
「え?」
オーナーの魂が消えかけている……?
(だからあの時、一瞬しか視る事ができなかったの?)
それじゃあ私がこれからしようとしてる事って……。
「だから、これを持って行け」
「――!? これって……」
ジャラリと音を立てて差し出されたのは……数珠。
いつも栄慶さんが持ってる、黒くて長い数珠だ。
「強い念を込めてある。これを持っていけば消えかけた魂でも見つけられるだろう」
「あとはお前次第だ」
「栄慶さん……」
どうしてそんなに優しくしてくれるんですか……。
どうして私の我儘に付き合ってくれるんですか……。
(栄慶さんっ栄慶さんっ)
心の中で何度も叫びながら、受け取った数珠をギュッと胸元で握りしめる。
「ただし、きっちり礼はしてもらうからな」
彼はそう言って優しい笑みを浮かべる。
「は、はいっ!終わったら掃除でも何でもしますか─……んっ!」
次の瞬間、グッと腰を掴まれ口を塞がれた。