親友 其の十二
文字数 1,512文字
「遺伝子性の病気って……」
「俺……知らない。そんなこと……聞かされてない。母さんが死んだのも、持病が悪化したからって……」
宗近くんは呆然と二人を見つめる。
すると沈黙を保っていたお父さんが口を開いた。
「結婚前からその事は聞かされていた。それでも私は、覚悟の上で母さんと一緒になった」
「けして裕福とは言えない生活だったが……お前たちも生まれて私は幸せだった」
「宗近が将来神主になりたいと言ったときは本当に嬉しかったなぁ……」
お父さんの表情は分からないけど、その声は本当に……心から嬉しかったのだという事が伝わってきた。
だけどそれはすぐに悲しみの声へと変わった。
「だが……あいつが6歳とき、怪我で病院に運ばれて分かったんだ。宗近も母さんと同じ遺伝子を持っていた」
「あのヤブ医者めっ、生まれてすぐ検査した時は心配ないと言っていたのにっっ」
部屋にドンッと握り拳で床を叩く音が響き渡る。
そしてお父さんは肩を落としながら言葉を続けた。
「私はどう接していいのか分からなくなって……あいつを避けるようになってしまった」
「それでも……母さんと何度も話し合って現実を受け入れようとした、その矢先、母さんは倒れて……そのまま逝ってしまった」
「棺で眠る母さんの姿を見て思った。私は彼女を本当に幸せにしてやれたのかと……母さんは旧家の末娘だ。私と一緒にならなければ何不自由のない生活を送り、裕福な家に嫁いでたはずだ。病気も発症しなかったかもしれない」
「そう思うと、このまま宗近が私の跡を継いで幸せなのか……神に仕えるこの生活があいつにとって本当に幸せだと言えるのか……自由に好きな事をさせてやった方が長く生きられるかもしれないと思ったんだ」
「でもまさか事故で逝ってしまうなんて思いもしなかった」
「私の選択は間違っていたのか……。もっとあいつに向き合ってやれば……」
その言葉を最後に、お父さんは下を向いて何も言わなくなった。
泣いているのか……微かに肩が震えていた。そして今度は正近くんが口を開く。
「父さんが兄ちゃんに跡継いでほしいって思ってた事……知ってる。兄ちゃん用の差袴 用意してたのも知ってる」
※差袴(神職用のはかま)
「だけど俺、そのこと兄ちゃんに言えなかった。父さんの気持ちが俺から離れていくのが怖かったんだ」
「本来あの神社を継ぐのは兄ちゃんなんだ。死んでも兄ちゃんなんだ」
「これは兄ちゃんに言わなかった俺への罰なんだ。だから俺は神職にはなれない、なっちゃいけないんだ」
そう言って、正近くんもまた……肩を震わせながら下を向いた。
「何……言ってんだよ」
静まり返った部屋の中、二人の話を静かに聞いていた宗近くんが口を開いた。
「何言ってんだよっ!! お前が跡継ぐんだろっ、父さんとあの神社守ってくんだろっ、それがお前の夢なんだろっ!?」
彼は声を荒げながら正近くんに掴みかかる。
だけど彼の手は正近くんの身体をすり抜けてしまう。
「――っ、何だよっ、何でだよ……」
「お前が跡継ぎたいって言ってたから俺は……興味ないって……跡継げるのは正近一人だって思われる様にずっと……」
「母さんのことだってそうだ。母さんいつも俺に言ってた……父さんこと………言ってたのに……」
「宗近くん……」
彼は彼なりに二人のこと考えていたんだ。
自分の気持ちを押し殺して……二人が幸せになれるように。
「――っっ!!」
「宗近くんっ!?」
彼は何を思ったのか
勢いよく正近くんの身体に飛び込んだ。
「俺……知らない。そんなこと……聞かされてない。母さんが死んだのも、持病が悪化したからって……」
宗近くんは呆然と二人を見つめる。
すると沈黙を保っていたお父さんが口を開いた。
「結婚前からその事は聞かされていた。それでも私は、覚悟の上で母さんと一緒になった」
「けして裕福とは言えない生活だったが……お前たちも生まれて私は幸せだった」
「宗近が将来神主になりたいと言ったときは本当に嬉しかったなぁ……」
お父さんの表情は分からないけど、その声は本当に……心から嬉しかったのだという事が伝わってきた。
だけどそれはすぐに悲しみの声へと変わった。
「だが……あいつが6歳とき、怪我で病院に運ばれて分かったんだ。宗近も母さんと同じ遺伝子を持っていた」
「あのヤブ医者めっ、生まれてすぐ検査した時は心配ないと言っていたのにっっ」
部屋にドンッと握り拳で床を叩く音が響き渡る。
そしてお父さんは肩を落としながら言葉を続けた。
「私はどう接していいのか分からなくなって……あいつを避けるようになってしまった」
「それでも……母さんと何度も話し合って現実を受け入れようとした、その矢先、母さんは倒れて……そのまま逝ってしまった」
「棺で眠る母さんの姿を見て思った。私は彼女を本当に幸せにしてやれたのかと……母さんは旧家の末娘だ。私と一緒にならなければ何不自由のない生活を送り、裕福な家に嫁いでたはずだ。病気も発症しなかったかもしれない」
「そう思うと、このまま宗近が私の跡を継いで幸せなのか……神に仕えるこの生活があいつにとって本当に幸せだと言えるのか……自由に好きな事をさせてやった方が長く生きられるかもしれないと思ったんだ」
「でもまさか事故で逝ってしまうなんて思いもしなかった」
「私の選択は間違っていたのか……。もっとあいつに向き合ってやれば……」
その言葉を最後に、お父さんは下を向いて何も言わなくなった。
泣いているのか……微かに肩が震えていた。そして今度は正近くんが口を開く。
「父さんが兄ちゃんに跡継いでほしいって思ってた事……知ってる。兄ちゃん用の
※差袴(神職用のはかま)
「だけど俺、そのこと兄ちゃんに言えなかった。父さんの気持ちが俺から離れていくのが怖かったんだ」
「本来あの神社を継ぐのは兄ちゃんなんだ。死んでも兄ちゃんなんだ」
「これは兄ちゃんに言わなかった俺への罰なんだ。だから俺は神職にはなれない、なっちゃいけないんだ」
そう言って、正近くんもまた……肩を震わせながら下を向いた。
「何……言ってんだよ」
静まり返った部屋の中、二人の話を静かに聞いていた宗近くんが口を開いた。
「何言ってんだよっ!! お前が跡継ぐんだろっ、父さんとあの神社守ってくんだろっ、それがお前の夢なんだろっ!?」
彼は声を荒げながら正近くんに掴みかかる。
だけど彼の手は正近くんの身体をすり抜けてしまう。
「――っ、何だよっ、何でだよ……」
「お前が跡継ぎたいって言ってたから俺は……興味ないって……跡継げるのは正近一人だって思われる様にずっと……」
「母さんのことだってそうだ。母さんいつも俺に言ってた……父さんこと………言ってたのに……」
「宗近くん……」
彼は彼なりに二人のこと考えていたんだ。
自分の気持ちを押し殺して……二人が幸せになれるように。
「――っっ!!」
「宗近くんっ!?」
彼は何を思ったのか
勢いよく正近くんの身体に飛び込んだ。