親友 其の十八
文字数 1,802文字
「これで手紙書けとかどんな修行だよっ」
栄慶さん……もとい宗近くんはプンプンと怒り出す。
そう言えば、以前編集部に封書が届いた時も筆書きだったなぁと思いつつ、とりあえず私の仕事用鞄に入れてあったボールペンを彼に渡し、事なきを得た。
そして宗近くんは手紙を書き上げるとすぐに身体から抜け出し、意識の戻った栄慶さんに向かって非難めいた言葉を投げつけたが
「お前、神社の息子だろう?」
という呆れ顔の一言でそれは一掃された。
その後、凹む宗近くんを連れて私達は彼の家へと向かい、通された客間で〝生前〟栄慶さんが預かっていた事にして、彼のお父さんに手紙の入った封筒を渡した。
「宗近がこれを?」
「兄ちゃんが手紙を書くなんて……」
と、二人は最初怪訝な表情を見せていたが、四つ折りに畳まれた手紙を開くと
「ああ、間違いない、これはあいつの筆跡だ」
「ほんとだ、兄ちゃんの文字だ。相変わらず汚い字だなぁ……」
と微かに笑みを見せた。
(良かった、気づいてくれた)
宗近くんの書く字は少し汚い……というのもあるけれど、それ以前に文字が大きかったり小さかったり、かなり特徴的な書き方している。
もし二人がそれに気づかなければ、それとなく彼の部屋にある履歴書の筆跡を見てもらおうと思っていたが、その必要はなかったようだ。
お父さんは彼の字を愛おしそうに指でなぞってから、一枚目に書かれたものを読み上げていく。
父さん、正近へ。
もし俺に何かあっても可哀そうだなんて思わないように!
俺の夢は正近に託すから、父さんと後はよろしくな。
俺と母さんの居場所、二人で守っていってくれよな。
宗近より。
P.S 母さんはいつも父さんと一緒になれて幸せだって言ってた。
俺も父さんの息子で良かった。
それだけは忘れないでね?
短い文章だけど、宗近くんらしい家族への想いが込められた手紙だった。
「あいつ……病気のこと知っていたのか……」
お父さんはポツリと呟きながら二枚目をめくる。
そこには大きさの違う
『家族』の文字。
宗近くんが面倒だと言いつつ墨をすって書いた言葉。
「ははっ、『家』を大きく書きすぎだ。相変わらず配分を考えて書かないやつだ」
お父さんはそう言うと立ち上がり、別の部屋から長方形のブリキ缶を持って戻ってくる。
そして中から握りつぶしたような織り目の付いた用紙を一枚取り出し、それを私達に広げて見せてくれた途端、その様子を浮かびながら見ていた宗近くんが驚きの声をあげた。
「それ……残ってたのか」
それは今のと同様、大きさの違う家族の二文字と、二年 硯 宗近 と筆で書かれた、色あせた半紙だった。
「あいつが授業で書いたものです。妻が亡くなってすぐゴミ箱に突っ込まれていたものを見つけて取っておいたんです。他にも絵や作文、図工作品なんかも残してあるんですよ」
「母親が亡くなってからというもの、持って帰るとすぐに捨てるものですから、気づかれないよう回収するのが大変でしたよ」
「全て……私の宝物です」
お父さんは誇らしげに笑みを浮かべる。
その表情から、宗近くんをどれほど大切に思ってきたのかが伝わってくる。
「父さん……」
彼もそのことに気づいたのだろう、お父さんに似た笑みを浮かべた。
「宗近が最後に残した手紙は私の……いや、私たち家族の最高の宝物になります。あいつと妻の気持ちが聞けて良かった」
「こんなにも嬉しい贈り物を宗近は君に託してくれたんだね。ありがとう栄士君」
「……宗近は誰よりも家族思いの友人でした。きっと今も、すぐ近くで笑って二人を見ているはずです」
「へへっ」
くすぐったそうに宗近くんは笑う。
「へへっ、兄ちゃんが最後に残してくれたものだから、ちゃんと言いつけ守らないとな」
正近くんも同じように笑いながら手の甲で涙を拭うと、すぐに真剣な面持ちで横に座るお父さんの顔を見た。
「俺、父さんの跡継ぐよ! そして母さんと兄ちゃんの居場所を守っていくよ!!」
「そうか……そうか……、宗近も正近も私のかけがえのない息子だ 。あいつの分まで守っていこう」
「そうそう、守っていってくれよなー」
こうして……家族の想いは一つになった。
栄慶さん……もとい宗近くんはプンプンと怒り出す。
そう言えば、以前編集部に封書が届いた時も筆書きだったなぁと思いつつ、とりあえず私の仕事用鞄に入れてあったボールペンを彼に渡し、事なきを得た。
そして宗近くんは手紙を書き上げるとすぐに身体から抜け出し、意識の戻った栄慶さんに向かって非難めいた言葉を投げつけたが
「お前、神社の息子だろう?」
という呆れ顔の一言でそれは一掃された。
その後、凹む宗近くんを連れて私達は彼の家へと向かい、通された客間で〝生前〟栄慶さんが預かっていた事にして、彼のお父さんに手紙の入った封筒を渡した。
「宗近がこれを?」
「兄ちゃんが手紙を書くなんて……」
と、二人は最初怪訝な表情を見せていたが、四つ折りに畳まれた手紙を開くと
「ああ、間違いない、これはあいつの筆跡だ」
「ほんとだ、兄ちゃんの文字だ。相変わらず汚い字だなぁ……」
と微かに笑みを見せた。
(良かった、気づいてくれた)
宗近くんの書く字は少し汚い……というのもあるけれど、それ以前に文字が大きかったり小さかったり、かなり特徴的な書き方している。
もし二人がそれに気づかなければ、それとなく彼の部屋にある履歴書の筆跡を見てもらおうと思っていたが、その必要はなかったようだ。
お父さんは彼の字を愛おしそうに指でなぞってから、一枚目に書かれたものを読み上げていく。
父さん、正近へ。
もし俺に何かあっても可哀そうだなんて思わないように!
俺の夢は正近に託すから、父さんと後はよろしくな。
俺と母さんの居場所、二人で守っていってくれよな。
宗近より。
P.S 母さんはいつも父さんと一緒になれて幸せだって言ってた。
俺も父さんの息子で良かった。
それだけは忘れないでね?
短い文章だけど、宗近くんらしい家族への想いが込められた手紙だった。
「あいつ……病気のこと知っていたのか……」
お父さんはポツリと呟きながら二枚目をめくる。
そこには大きさの違う
『家族』の文字。
宗近くんが面倒だと言いつつ墨をすって書いた言葉。
「ははっ、『家』を大きく書きすぎだ。相変わらず配分を考えて書かないやつだ」
お父さんはそう言うと立ち上がり、別の部屋から長方形のブリキ缶を持って戻ってくる。
そして中から握りつぶしたような織り目の付いた用紙を一枚取り出し、それを私達に広げて見せてくれた途端、その様子を浮かびながら見ていた宗近くんが驚きの声をあげた。
「それ……残ってたのか」
それは今のと同様、大きさの違う家族の二文字と、二年 硯 宗近 と筆で書かれた、色あせた半紙だった。
「あいつが授業で書いたものです。妻が亡くなってすぐゴミ箱に突っ込まれていたものを見つけて取っておいたんです。他にも絵や作文、図工作品なんかも残してあるんですよ」
「母親が亡くなってからというもの、持って帰るとすぐに捨てるものですから、気づかれないよう回収するのが大変でしたよ」
「全て……私の宝物です」
お父さんは誇らしげに笑みを浮かべる。
その表情から、宗近くんをどれほど大切に思ってきたのかが伝わってくる。
「父さん……」
彼もそのことに気づいたのだろう、お父さんに似た笑みを浮かべた。
「宗近が最後に残した手紙は私の……いや、私たち家族の最高の宝物になります。あいつと妻の気持ちが聞けて良かった」
「こんなにも嬉しい贈り物を宗近は君に託してくれたんだね。ありがとう栄士君」
「……宗近は誰よりも家族思いの友人でした。きっと今も、すぐ近くで笑って二人を見ているはずです」
「へへっ」
くすぐったそうに宗近くんは笑う。
「へへっ、兄ちゃんが最後に残してくれたものだから、ちゃんと言いつけ守らないとな」
正近くんも同じように笑いながら手の甲で涙を拭うと、すぐに真剣な面持ちで横に座るお父さんの顔を見た。
「俺、父さんの跡継ぐよ! そして母さんと兄ちゃんの居場所を守っていくよ!!」
「そうか……そうか……、宗近も正近も私のかけがえのない息子だ 。あいつの分まで守っていこう」
「そうそう、守っていってくれよなー」
こうして……家族の想いは一つになった。