加茂倉少年の恋 其の九
文字数 1,821文字
「その子の名前、エリナちゃんって言うんですけど……」
話を要約すると、俊介くんは三日前、啓太くんに憑依したエリナちゃんという女の子に好きだと告白を受けたらしい。
だけど自分をからかっているだけだと思った俊介くんはそれを受け流したらしいが、何度も自分をエリナだと言って告白してくる啓太くんを見て、それが本当なのではないかと思うようになり、その件で栄慶さんに相談しに来たという事だった。
「エリナちゃん、最近病気で亡くなったらしくて……その入院していた病院で俺に助けられた事があって好きになったと言っていました」
「確かに以前、祖父が入院していた時によく見舞いに行ってたんです。でもその事は他の二人には言ってなかったので知っているはずがないんです」
「それなら病院でエリナちゃんに会った記憶があるんじゃないの?」
今聞いた話だけでは憑依してるのかどうか決定づける事はできないけど、可能性として病院での記憶が新しければ彼女出会った時のことを覚えているのではないかと思い、私は俊介くんに問いかける。
「それが……ないんです。別の人じゃないかと言ったんですけど、俺で間違いないって……」
「病院で誰かを助けた記憶は?」
「それは……困ってそうな人がいれば声を掛けたり手を貸したりしたことはありましたけど、誰が誰だか……」
「あー……あれだよね、少年、よく周りからお人よしって言われるでしょ?」
呆れたような表情で言う宗近くんに、俊介くんは困った顔をして頷く。
「放っておけなくて……」
「良い事じゃない。そんな俊介くんの優しい所にエリナちゃんは惹かれたわけでしょ?」
「惹かれたって言ってもしょせん相手は幽霊でしょ? このまま啓太少年の身体に憑依したまま付き合う事なんて無理じゃない?」
「それは……そうだけど」
「現実的に考えれば宗近の言うとおりだ。本当に憑依されているのであれば早く引き離さねばならん。長引くと厄介だ」
隣で栄慶さんが眉を顰めながら答える。
確かにエリナちゃんがいくら俊介くんの事が好きでも、彼女が亡くなっているのであれば恋人同士になる事はできない。
それに栄慶さんが言うように、啓太くんの身体に何かしら影響が出てくる可能性だって無いとは言い切れない。
「じゃあさ、今すぐ啓太少年をここに連れて来て、エージにパパッと除霊してもらえばいいじゃん。悪霊ならまだしも最近まで普通の女の子だったんだから楽勝だって♪ そのまま成仏させたげれば解決でしょ?」
「ま、待って下さいっ!!」
俊介くんは慌てて止めに入ると、栄慶さんに訴えかけるような表情を向ける。
「確かにこのままでは駄目だという事は分かっています。でも彼女、お願いを聞いてくれたら離れるからって言ってくれたんですっ!!」
「お願いって?」
聞き返した私に対し、俊介くんは一瞬言葉を詰まらせたかと思うと、そのまま頬を赤く染め上げ目を泳がせ始める。
「あの、その……お、俺と……、で……デートしてくれたらって……」
(あららっ)
「青春だね~? 爆発しろって感じ」
「宗近くんっ!」
からかう彼を止めつつ、その可愛らしいお願いと俊介くんの表情を見て思わず私は頬を緩める。
「そっかー、そんなお願いを言ってきたのね~、それで俊介くんはそれを叶えてあげたいのよね?」
「……はい。でも俺、で……デートとか初めてで、どこに行けばいいのか分からないし、女の子にどんな話をすればいいのかも分からなくて……」
「こんなこと……友達にも相談できないし……」
「つーか友達に相談できないからって、普通エージに相談しにくる?」
「他に相談できそうな人思いつかなくてっ……。それにデ、デート中、啓太やエリナちゃんに何かあっても俺じゃ対処できないですしっ」
「ご住職と一緒なら安心できますしっ、何かあったとき助けてくれると思ってっ!」
「――……私が……一緒に行く、のか?」
栄慶さんは表情には出さなかったものの、声から明らかに動揺が見て取れる。
私もまた予想外の展開に言葉を失ってしまった。
「初デートに坊さん連れてくとか……面白そうだけど、俺が女の子なら絶対やだ」
宗近くんがポツリと呟く。
私もそれは嫌だなぁ~と、心の中で思っていると、俊介くんは勢いよく頭を左右に振り、私に向かって叫んだ。
「いえ、ご住職だけでなく、お姉さんも一緒に行ってくれませんか!?」
話を要約すると、俊介くんは三日前、啓太くんに憑依したエリナちゃんという女の子に好きだと告白を受けたらしい。
だけど自分をからかっているだけだと思った俊介くんはそれを受け流したらしいが、何度も自分をエリナだと言って告白してくる啓太くんを見て、それが本当なのではないかと思うようになり、その件で栄慶さんに相談しに来たという事だった。
「エリナちゃん、最近病気で亡くなったらしくて……その入院していた病院で俺に助けられた事があって好きになったと言っていました」
「確かに以前、祖父が入院していた時によく見舞いに行ってたんです。でもその事は他の二人には言ってなかったので知っているはずがないんです」
「それなら病院でエリナちゃんに会った記憶があるんじゃないの?」
今聞いた話だけでは憑依してるのかどうか決定づける事はできないけど、可能性として病院での記憶が新しければ彼女出会った時のことを覚えているのではないかと思い、私は俊介くんに問いかける。
「それが……ないんです。別の人じゃないかと言ったんですけど、俺で間違いないって……」
「病院で誰かを助けた記憶は?」
「それは……困ってそうな人がいれば声を掛けたり手を貸したりしたことはありましたけど、誰が誰だか……」
「あー……あれだよね、少年、よく周りからお人よしって言われるでしょ?」
呆れたような表情で言う宗近くんに、俊介くんは困った顔をして頷く。
「放っておけなくて……」
「良い事じゃない。そんな俊介くんの優しい所にエリナちゃんは惹かれたわけでしょ?」
「惹かれたって言ってもしょせん相手は幽霊でしょ? このまま啓太少年の身体に憑依したまま付き合う事なんて無理じゃない?」
「それは……そうだけど」
「現実的に考えれば宗近の言うとおりだ。本当に憑依されているのであれば早く引き離さねばならん。長引くと厄介だ」
隣で栄慶さんが眉を顰めながら答える。
確かにエリナちゃんがいくら俊介くんの事が好きでも、彼女が亡くなっているのであれば恋人同士になる事はできない。
それに栄慶さんが言うように、啓太くんの身体に何かしら影響が出てくる可能性だって無いとは言い切れない。
「じゃあさ、今すぐ啓太少年をここに連れて来て、エージにパパッと除霊してもらえばいいじゃん。悪霊ならまだしも最近まで普通の女の子だったんだから楽勝だって♪ そのまま成仏させたげれば解決でしょ?」
「ま、待って下さいっ!!」
俊介くんは慌てて止めに入ると、栄慶さんに訴えかけるような表情を向ける。
「確かにこのままでは駄目だという事は分かっています。でも彼女、お願いを聞いてくれたら離れるからって言ってくれたんですっ!!」
「お願いって?」
聞き返した私に対し、俊介くんは一瞬言葉を詰まらせたかと思うと、そのまま頬を赤く染め上げ目を泳がせ始める。
「あの、その……お、俺と……、で……デートしてくれたらって……」
(あららっ)
「青春だね~? 爆発しろって感じ」
「宗近くんっ!」
からかう彼を止めつつ、その可愛らしいお願いと俊介くんの表情を見て思わず私は頬を緩める。
「そっかー、そんなお願いを言ってきたのね~、それで俊介くんはそれを叶えてあげたいのよね?」
「……はい。でも俺、で……デートとか初めてで、どこに行けばいいのか分からないし、女の子にどんな話をすればいいのかも分からなくて……」
「こんなこと……友達にも相談できないし……」
「つーか友達に相談できないからって、普通エージに相談しにくる?」
「他に相談できそうな人思いつかなくてっ……。それにデ、デート中、啓太やエリナちゃんに何かあっても俺じゃ対処できないですしっ」
「ご住職と一緒なら安心できますしっ、何かあったとき助けてくれると思ってっ!」
「――……私が……一緒に行く、のか?」
栄慶さんは表情には出さなかったものの、声から明らかに動揺が見て取れる。
私もまた予想外の展開に言葉を失ってしまった。
「初デートに坊さん連れてくとか……面白そうだけど、俺が女の子なら絶対やだ」
宗近くんがポツリと呟く。
私もそれは嫌だなぁ~と、心の中で思っていると、俊介くんは勢いよく頭を左右に振り、私に向かって叫んだ。
「いえ、ご住職だけでなく、お姉さんも一緒に行ってくれませんか!?」