三三

文字数 1,998文字


 七月三日、時来る。わたし、北川瑞希はいつものように大和高等学園に向かっていた。
 今日は早坂先生が正式にわたしのクラスの副担任になることと放課後は演劇部の結成式の日だ。
 そして、来週からは一学期末考査を迎える。大忙しだ。気合いを入れていかないとね。
「瑞希先生、お早うございます」と、声をかけてきたのは早坂先生だった。
「早坂先生、お早うございます。…ところで、海里さんに海斗君はご一緒ではないのですか?」
「はい。あの二人は未来君と一緒に来ますよ。もう父離れですかね、寂しくなります」
「またまたご冗談を…。それに、まだ大丈夫だと思いますよ」
「そうですか。それにしても、どうも冗談は海里のが、移ったのかな?」
「いいえ、それは早坂先生が本家では?」
「そこで、なんてねって、オチだったのでしょうね」
「その通りです。それで笑いがとれていたのだと思われます」
 いつの間にか話が笑いの方に脱線し、何故か二人して、海里さんの冗談について真面目に分析していることが可笑しくなり、わたしを始め、早坂先生まで大爆笑していた。
「瑞希先生、それに早坂先生、お早うございます」と、未来君と海里さんと海斗君が合唱して挨拶をした。
「お、お早う」と、わたしと早坂先生も合唱して挨拶をした。
「ねえ、瑞希先生。それにパパ、どうしたの?」と、海里さんが声をかけてきた。
「海里さんの冗談について分析していたら、可笑しくて…。それに海里さんの冗談はお父さんの影響なの?」
「…と、言いたいところだけど残念でした。ブブッ、ママ譲りです」と、海里さんの答えは実にユーモアがあった。
「じゃあ、本家はお母さんってことなの?」
「はあい。そうです」と、なんてね。がないところをみると本当のようだ。
「本当か、海斗」と、早坂先生は海斗君に聞いた。
「うん。本当だよ」と、海斗君は、普通に答えた。これで早坂先生の無実(笑)を証明。
「…では、真相もわかったということで、いざ学園へ出陣!」と、未来君が締め括りを担当した。
「あらあら、未来君まで…」と、わたしは海里さんの影響がここまで大きかったとは…と思った。
(確かに、平田孝夫君の言っていた通り、コメディならいけそうね)と、わたしは真面目に考えていた。別に箸が転がっても可笑しい年頃ではないのだけれども、また危なく大爆笑をするところであった。
 そんな中、わたしは教壇に立っていた。横には早坂先生がいる。目の前には生徒たちが席に座っている。
「皆さん、お早うございます。本日より副担任になりました。早坂先生を紹介します」
 すると早坂先生は黒板に自分の名前を大きく書いた。
「早坂貢です。皆さんが過ごす学園生活の中で一緒に大切な青春時代を築きあげていきたいと考えています。まだ私自身が皆さんに学ぶことも多いと思いますが、宜しくお願いします」
「では、今日は数学の授業からなので、早坂先生に学んでいきましょう」
「それでは、早坂先生。宜しくお願いします」と、わたしは告げてから教室を出た。
 それから次の授業の準備をするため、わたしは職員室に戻った。そして自分の席に着いてふと思った。
(そういえば海里さん、脚本を担当することにこだわっていたけど、何か理由でもあったのかな?)
 海里さんがこの学園に来て、まだ二週間ほどしか経っていないが、彼女は英語に関してはアメリカで暮らしていたこともあり、他の生徒たちよりもずば抜けている。日本語も他の生徒たちに比べればやや幼い口調ではあるが、別に会話する分には問題はない。しかし、漢字の読み書きと日本語による文章表現は、彼女が自分で言うように確かに苦手なようだ。それにここのところ彼女が質問に来ることが多くなっている。それはとても嬉しいことだ。
 彼女は彼女なりに努力をしている。それは大切にしてあげたい。
 そして、未来君も彼女と出会ってから成長しているように思える。最初は喧嘩ばかりしているように思えたけど、彼は彼女と一緒に行動するようになってから、彼は彼なりに彼女のことを守ろうと努力している。
 そう思えば、この二人は、これからも一緒に行動した方がいい。
(脚本のことについては、昼休みにそれとなく聞いてみるか…)
 結局のところ、それが一番かと思った。
 補足ではあるが、瑞希はこう考えていた。八月二十四日のふるさと祭りのイベントに海里が脚本した劇を盛り込んだらいいのではないかと。つまり前半に劇団山越仲良座の寸劇。後半に海里が脚本した劇の二本立ての予定をしていたのである。しかしながら、その期間に対して、海里に大きな負担を与えるのではないのかと心配していた。そして、その彼女の負担を未来がカバーできたらと思えば希望が持てる。それに今回は部長も必要になる。それに関して候補を立てていた。その人物は、未来でないことは確かである。彼を支えられる人物といえば…。
 まあ、それは結成式の時にわかるであろう。



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