二一

文字数 1,575文字


 朝、カーテンの隙間から爽やかな光が差し込む。目覚めれば白い世界。時計は八時十分を指していた。
 ん?今、八時十分…?
「しまった!」と、大声を上げたのは貢だった。
「何、どうしたの?」と、横で眠っていたリンダは、その大声に驚いて起き上がった。
「…遅刻だ」
「何言ってるの。明日からじゃないの学校に行くの」
「あ、そうだった」
「それより貢、今日は休みなんだし、一寝入りしてから何処かに行きましょ」
「そうだな。久しぶりの日本か…」と、呟きながら、貢はまた眠りの中に入った。
 続けてリンダも再び眠りに入り、二人仲良く眠りについた。そして、思い出の中で二人の記憶は重なった。
 まさに記憶と記憶の合体である。
 ―あれも高校生の時だったかな、昭和六十年七月七日。
 この頃のリンダは記憶を失っており、自分が誰かさえわからなくなっていた。鴇と出会った頃もそうだったが、彼女は「早川愛子」と名乗っていた。それは早川家の親切な人たちが引き取ってくれたからである。
 ただ、記憶をなくしていた彼女だが、この日の状況を以前にも経験したことがあるような気がしてならなかった。
 記憶にはなくても、体が覚えているような、そんな感じだった。
 しかも、ちょうど七夕の日に…。
 一学期末考査を迎えた時に、愛子(前もそうだったが、ここでも愛子でいこう)は風をこじらせ熱を出し、病院通いをしていた。そのために、今回の期末考査で欠点(六十点未満)を取りそうな気がしていた。なぜならば、記憶の向こう側で以前にも同じことがあったような気がしていたからだった。もしかして、de.jave?
 熱のため、または記憶のせいか、頭痛がして、涙ぐみながら頭を抱える愛子だったが…。
「元気ないな愛ちゃん。どうした?」
「…あっ、貢君」
「暗いぞ。深呼吸して、リラックスだよ」
「うん。ありがとう」
 貢の励ましが勇気となり、熱を下げ、頭痛を止める原因となって、愛子は今回の期末考査に歓喜の大勝利をすることができた。そして、この頃からかな、愛子の心に変化が現れたのは…。臨海学校の時だった。
 貢はついに自分の思いを愛子に告白した。「お前が好きだ」と…。愛子は涙が止まらなくなった。
 やだ。止まらなくなっちゃった。どうしたんだろう、愛子ったら…。
 こんなに貢君のこと、大好きだったのかな…。
 でも、友達としての「好き」じゃない。貢君のことを考えると、胸がドキドキするんだ。
 こういうのを「恋」って言うんだね。
 茜色に染まる海に向かって、愛子は自分の気持ちを悟るのだった。
 嬉しくても、悲しくても、感動しても、すぐ泣きだす愛子。
 泣き虫だけど、お転婆で感情的に振る舞い、自然体な愛子。
 愛子の綺麗すぎる程の純粋さに、俺は憧れていた。
 こんな時は、いい涙を流せられたら最高だよね…。
 これも、またいい思い出である。…リンダの思い出はまだ続きます。
 臨海学校が終わり、愛子と岸野美里は私学展(当時、愛子は美術部だった。これは美術部の大きなイベントである)に向かって、百号の絵画に取り掛かった。時は流れて、会場に各々の作品を搬出するその日の前日、愛子と美里、そして水瓶雅彦(愛子と美里の先輩)の三人で、徹夜での作品の仕上げをすることになった。責任者役の早川裕気と早川元気(早川家の兄弟、ちなみに部長が裕気で副部長が元気)も一緒に付き合っていることから、愛子は自分の仕上げようとしている作品に、他の二人とともに、懸命に取り組んでいくのだった。その結果、三人とも作品を仕上げての搬出に成功した。私学展は大成功に終わった。それも素晴らしい思い出となった。
 ―目覚めの朝、再び。今は二〇一五年六月二十三日、貢とリンダは思い出の中から現在に戻ってきた。
 そして、海里と海斗を連れて京都の街に食事をしに出かけて行った。それは清々しい朝の出来事であった。



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