Scene9 暗闇から光へ…。場所は、とある競馬場付近の公園。

文字数 2,363文字


 瑞希先生「海里さん、ママに会いに行くって言っていたけど、ママは今、何処にいるのかな?」
 海里「…アメリカ。八月二十四日に刑期を終えて、刑務所から帰って来るの…」
  海里は、俯いたまま、そう言った。元気がなさそうだ。
 瑞希先生「…海里さん、言いたくなかったら言わなくてもいいけど、ママはどうして刑務所にいるのかな?」
  海里は、俯いたまま、震えていた。
 瑞希先生「あ…辛かったのね。ごめんなさい。…もういいのよ」
  瑞希先生は、海里の肩に手を回した。
 海里「…瑞希先生、お願いがあります。…わたしが今からお話することは、海斗には内緒にしてあげて下さい」
  瑞希先生は、海里の肩から手を放した。そして、深呼吸をした。
 瑞希先生「…わかりましたよ」
 海里「あれは…十一年前のことでした。ママは麻薬に手を染めていました。そのことは、海斗は知りませんでしたけど、わたしは知ってしまいました。そのことで、わたしはママに叩かれたりして口止めされていました。わたしはママに隠れて、パパに、そのことを話そうとしましたけど、信じて貰えずに、パパにもの凄く怒られました。ママのことをわかって貰えないまま、パパは航海に出てしまいました。パパが航海で留守をしていたあの日…事件が起こりました」
  瑞希先生は、黙ったまま、海里を見守った。
 海里「当時、ママは銃工店で働いていました。海斗はお婆ちゃんに預かって貰っていたそうです。わたしはママから離れることなくくっ付いていました。監視という言葉を使うには、わたしはまだ五歳…。ママが麻薬を打つ時に邪魔をすることが精一杯でした。その度に、叩かれていました。…あの日、銃工店が強盗に襲われました。その影響と、わたしが邪魔をしていたこともあって、ママはパニックになって銃を乱射しました。そして、ママは銃口をわたしに向けました。…一緒に死んでちょうだい。ママはわたしにそう言いました…」
  海里は、俯いたまま、頭の上に手を置いた。冷や汗か流れていた。
 海里「わたしは、ママから逃げました。でも、背中に…言葉では表現できない衝撃がありました。そこからは…覚えていません。気が付けば、わたしは病院のベッドの上でした。あと数分、病院に運ばれるのが遅かったら、わたしは死んでいたそうです。…ママは大麻取締法違反、殺人未遂、幼児虐待の罪によって刑務所に入れられました…」
  海里は、ようやく顔を上げることができた。その顔は汗と涙で濡れていた。瑞希先生は、海里を優しく抱きしめた。
 海里「瑞希先生…?」
  瑞希先生は少し震えていた。泣いているようだった。
 瑞希先生「…海里さん、勇気を持って、よく話してくれましたね…。辛かったのですね」
 海里「瑞希先生!」
  海里は、瑞希先生の胸の中で泣き出した。瑞希先生は、海里の頭を撫でていた。
  すると、パキッと枝が折れた音がした。
 瑞希先生「誰?」
  瑞希先生は涙を零したまま、音のする方に顔を向けた。そこには、未来がいた。
 未来「…あ、瑞希先生…すみません」
  未来は、涙を零していた。
 瑞希先生「…今の話、聞いたのね?」
  未来は、頷いた。そして、瑞希先生と海里の傍に近付いた。
 瑞希先生「未来君、海斗君と恭平君は?」
 未来「海斗のことは、恭平に頼んで時間を潰して貰っている。俺は海里のことが心配だったから…」
 瑞希先生「…そうだったの。じゃあ、わたしの話も聞いてくれるかな…?」
  海里は、コクッと頷いた。
 瑞希先生「わたしが、まだ六歳だったかな。…あの日、お父さんと喧嘩したの。喧嘩の原因は些細なものだった。そして、わたしは家の中で急に熱を出して倒れたの。誰もいなくて、淋しくて、このまま死んじゃうのかなと思った。気が付いたら病院のベッドの上だった。…同じ日、お父さんは交通事故で亡くなっていた。わたしは、お父さんにごめんなさいを言って謝りたかった。でも、もうお父さんはいない。…会えないのよ」
  海里と未来は、言葉を失った。
 瑞希先生「…わたしは友達に教えられたの。その人も先生と同じで、小さい時にお父さんを亡くしていたの。その人は、お父さんのことを許せなかったと言っていた。でも、その人の心の中では、もう仲直りしていたのよ。お墓参りの時に、わたしはその人と一緒に行って、ちゃんとした形でお互いのお父さんと仲直りをしたのよ」
 未来「…今、その人はどうしているの?」
 瑞希先生「とても明るい活発な女の子と、おとなしくて、しっかり者の男の子に恵まれて、家族仲良く暮らしているそうよ」
  未来は、海里の前でしゃがんで、目線を合わせた。
 未来「海里、俺も一緒に行くよ。…お前、一人で背負い込むなよ。俺も一緒だから…」
 海里「…いいの?わたしのために、そんなこと言って…」
 未来「ああ、お前を守りたいんだ」
  未来は、海里の頬を触った。
 瑞希先生「…未来君、ありがとう。本当は先生が一緒に行ってあげたいのだけど…」
 未来「瑞希先生、先生は俺たちが帰って来るのを待っていてよ。クラスのみんなを守ることは、瑞希先生にしかできないから…」
 瑞希先生「じゃあ、約束してくれるかな?」
 未来「何でしょう?」
 瑞希先生「まず元気に帰って来ること。定期的に連絡すること。それから、夏休みの宿題は持参すること」
 未来「…だってさ、海里。夏休みの宿題は最終日ギリギリじゃ、しんどいものな」
 海里「…そうね。みんな、夏休みの宿題は大丈夫かな!」(子供たち「大丈夫だよ。お姉ちゃん」と返事)
  光から暗闇へ…。
 伊都子(ナレーション)「みんな、海里お姉ちゃんも夏休みの宿題を頑張っているからね。さて、瑞希先生は、海里さんたちを家に連れて行きました。そこで、瑞希先生は、みんなにラーメンをごちそうしました」



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