二四

文字数 1,286文字


 二年一組の教室のドアの前で瑞希と海里は足を止めた。
「わたしが先に教室に入るから、海里さんはここで待っていてね。そして、わたしが呼んだら入って来てね」
「はい」
 瑞希は教室に入り、教壇に立った。海里は教室の外で、緊張するどころかワクワクしていた。
「おはようございます。今日は転校生が来ました。みんな仲良くしてくださいね。君、入りなさい」
 そして教室のドアが開き、その生徒は瑞希の横に立った。
「それでは自己紹介をお願いします」
「早坂海里です。皆さん、宜しくお願いします」と、海里は笑顔で挨拶をした。
「海里さんは、生まれも育ちもアメリカで、日本の学校に来たのは今日が初めてだそうです。先生からみんなにお願いがあります。海里さんは日本の学校生活で、わからないことが沢山あると思いますので、色々と教えてあげてね」
 未来は海里の顔をじっと見ていた。(?)と、彼女は、その視線に気づいた。
 そして、「あっ!」と、未来は大声を上げた。それに続いて海里も「あっ!」と、大声をあげた。
「なになに、どうしたの?二人とも」と、瑞希は驚いていたが、今の二人にはお構いなしだ。
「お前は、あの時の怪力女!だから、海里なのか」
「女の子に対して失礼ね!あの時のことはちゃんと謝ったじゃない」
「人をはずみで投げ飛ばしといてか?」
「男のくせにいちいちうるさいわね!だから女の子なんかに投げ飛ばされるのよ」
「認めたな。自分が怪力女だって」
「もう一回、投げ飛ばしてあげましょうか!」と、海里はズカズカと未来の前に近付いて行った。
 その時だった。「うるさい!」と、瑞希は大声を上げて、教壇の机をバンッと叩いた。
 それに驚いたクラスの全員が一斉に瑞希の方を見た。
「二人とも授業の邪魔だ。後ろに立ってなさい!」と、瑞希は怖い顔で言った。
「は、はい…」と、未来と海里はびっくりしながら一緒に返事をして、静かに教室の後ろに並んで立った。
「さあ、授業を始めるわよ」と、瑞希は笑顔に戻っていた。
(あらら…。海里、早速やったか。瑞希先生も北川先生にそっくりだな)
 と、その様子を教室の外から見ていた貢は、懸命に笑いを堪えていた。
 海里は、トントンと未来の腰辺りを叩いて小声で言った。
「もう、君のせいで、わたしの最初の登校日が台無しになったじゃない」と、海里はまだ怒っていた。
「お前が俺のこと、投げ飛ばすって言うからじゃないか」と、未来も譲らずだった。
 すると、瑞希がこちらをキッと睨みつけた。
(瑞希先生って、怒ると怖いな…)と、未来と海里の二人は喧嘩を止めて静かになった。
 こうして、一時間目は無事に(どこが?)終わった。
「海里さん、海里さん」と、瑞希は教室のドアの近くから手招きをしていた。
 海里は瑞希の傍に寄って来た。
「海里さん、初日そうそうびっくりさせてごめんね。でもね、みんなの授業の邪魔をするのはいけないことよ。今度から気をつけてね」と、瑞希は優しく言った。
「はい。先生」と、海里は笑顔で言った。
 未来はその二人の様子を自分の席から見ていた。
(なんだよ、あいつ。いい子ぶりやがって)と、未来は海里に対して心の中で呟いた。



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