四五

文字数 1,973文字


「海里、ここにいたのか。おはよう」
「あっ、未来君、おはよう」
 同じ部屋、同じベッドの上で朝を迎えた。目が覚めた時、わたしは一糸まとわない裸の自分の姿に驚いた。
(あっ、そうか…。あのまま寝ていたのね)
 隣にいる未来君も一糸まとわない裸だった。未来君の寝顔を見ているうちに、わたしは、昨日の出来事を思い出した。
(昨日は、わたし、とても大胆なことをしていたのね)と思うと、顔が火照ってきた。(こんな時は、シャワーでも浴びよう)と思って、一足お先に風呂場を借りたわけである。未来君が風呂場のドアを開けた時、わたしは体を洗っていた。
「海里、一緒に洗いっこしようか?」
「うん!」
「えっ、本当にいいのか?」
 どうも未来君は冗談のつもりで言ったみたいだけど、わたしが本気だったことに驚いたようだ。ならば…。
「わたし、未来君の背中を流してあげるね。じゃあ、後ろ向いて座って」
「こうか?」と、未来君が聞くと「そうそう」と、わたしは答えた。タオルを持って未来君の背中を洗い出した。すると、タオルが手から滑り落ちた。(あらら…。まあ、いいか)と思い、わたしは自分の胸を未来君の背中に押し当てた。
 つまり、後ろから彼に抱きついたような形になった。そのまま自分の体を使って未来君の背中を洗い出した。
「ち、ちょっと待て。お…お前、それ刺激が強すぎるよ」と、未来君のリアクションは面白かった。
「じゃあ、次は前の方を洗ってあげるね…」と、わたしは悪戯っぽく言ってみた。
「その前にお前を洗ってやる」と言った未来君は「ほらほらほら…」と言いながら両手でわたしの体を触り出した。
「み、未来君…くすぐったいよ」と、わたしは体をよじらせた。
 …と、まあ、こんな調子でお互いの体を触り合いながら、まるで小さな子供みたいにふざけていた。
「じゃあ、そろそろ、準備して帰るか」
「そ、そうね…」と、わたしは(ママ、怒っているだろうな…)と思いながら玄関のドアを開けようとした。
「お、おい、ちょっと待て…」
「なあに?」
「お…お前、そのまま外に出ると、本当にまずいぞ…」と、未来君は驚いた顔をしていた。
「えっ?」と、わたしは自分の格好を見た。靴下と靴は履いて履いてはいるのだけど…それ以外は裸のままだった。次第にわたしの顔は火照ってきて「きゃあ!」と大声で叫んでから、その場にしゃがみ込んだ。
「あ、あの…誤解しないでね。わたし、服を着るのを忘れただけだからね…」と、わたしは何を言っているのだろう。
「嘘つけ。本当は…見られたいんじゃないのか?」と、未来君はニヤリとしながら言った。
「もう、未来君のエッチ…」と、わたしは顔を赤くしたまま言った。
 でも、そうは言ったものの、わたしもエッチかな。もしかしたら、男の子より女の子の方がエッチなのかもしれない。
 ついに、その時は来た。わたしは未来君の後ろをトボトボと歩いている。未来君はそれに気が付いたみたいだ。
「おい、海里、どうした?」
「わたし、ママに怒られちゃうよ…」
「おばさんって、そんなに怖いの?」
「うん…とっても…。それに、わたし、ひどいこと言っちゃったから…」
「大丈夫だよ」
「どうして…?」
「俺のお袋も怒ったら、とっても怖いから」
「そうなの…?」
「ああ…。でも、瑞希先生が怒った方が、よっぽど怖いな」
「それもそうね…」
 …と、わたしたちは笑い出した。そうしている間にメゾンタウンの九棟の二〇一号室の前にいた。
「海里、俺が一緒にいるから、そんなに怖がるなよ」
「う、うん…」
 チャイムを鳴らせば、ママが出て来た。
「ママ…。ひどいこと言って、ごめんなさい」
 すると、ママは手を上げた。わたしは「ひっ!」と叫びながら両手を頭の上に置いた。
「…海里、何してるの?」
「マ、ママに叩かれると思って…」
「そんなことしないよ…?眼鏡を外そうとしただけ…」と言って、ママは眼鏡を外した。
「あの、おばさん。海里さんのこと、怒らないで下さい」と、未来君は言った。
「別に怒ってないよ。…謝るのは、ママの方なの」
「えっ…?」と、わたしと未来君は声を合わせて言った。
「海里、ごめんね。あなたの気持ち、わかってあげられなかったね…」
「ううん、ママはわたしに太陽の伝説の劇を仕上げて貰いたかったのね。…わたし、少しだけわかったような気がするのママの気持ち。そんなママのことを大嫌いだなんて言ってしまって…本当にごめんなさい」
 そう言ったわたしは、気が付けば、涙を零していた。
「海里…」と、ママはわたしのことを抱きしめた。わたしは、堪え切れずに泣き出した。
 そして横で見ていた未来君も、貰い泣きをしていたように思われた。
「未来君、後で、わたしの部屋に来て。相談したいことがあるの…」
「…わかったよ。海里」
 こうしてわたしたちは、それぞれの部屋に入って行った。わたしたちの夏は始まったのだ。



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