二七

文字数 1,250文字


 まあ、そんなわけで私立大和高等学園での学園生活は色々とあったが楽しく過ごせていた。
 そして迎えた日曜日の朝。約束の場所のサンデーパークのブランコに座って、いつもの本を読んでいた。
「海ちゃん、おまたせ」
「あ、みっちゃん」
「早かったね」
「ううん、さっき来たばかりだよ」
「ところで、何の本、読んでたの?」
「あ、これ。太陽の伝説だよ」
「海ちゃん、いつもその本、大事にしてるね。ちょっと見せて貰っていいかな?」
「うん、いいよ」と、海里は満に本を手渡した。
 満は、その本を読み始めた。しかし…。
「えっと、海ちゃん」
「なあに?」
「あの、これ全部、英語だけど、海ちゃん、わかるの?」
「うん、わかるよ」
「海ちゃん、すごいね」
「でもね、日本語の文字はあまりわからないの」
「そうか。じゃあ、僕の妹に教えて貰うといいよ。妹は国語の先生なんだ」
「あっ、瑞希先生のことね」
「あっ、そうか。海ちゃんは瑞希の学校に通っているのだったね」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、大丈夫か」
「うん。それよりも、みっちゃん、遊ぼうよ」
「そうだったね。じゃあ、ブランコ揺らすからね。しっかりつかまってるんだよ」
「うん!」
 揺れるブランコ。海里は六歳のあの頃に戻ったように楽しんでいた。すると…。
「あなた」と、満を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おう、妙子か。どうした?」
 その妙子という女性は、五歳くらいの子供を連れていた。
(えっ?)と、海里は心の中で呟きながら、揺れが止まっているブランコから降りた。
「その子、誰?」と、妙子は満に聞いた。
「ああ、紹介するよ。僕のファンの早坂海里ちゃんだよ」
「は、早坂海里です」
「それで、こちらが僕のお嫁さんの妙子と娘の涼子」
「北川妙子です。ご主人が、いつもお世話になっています。涼子ちゃん、挨拶は?」
「きたがわりょうこ」
「涼子ちゃんか。いい名前だね」
「海ちゃんは、瑞希の教え子なんだ」
「そうなの。瑞希の…」
「ねえ、パパ、遊園地行こうよ」と、涼子は満の手を引っ張りながら言った。
「そうだな、行こうか。海ちゃん、ごめん。また今度ね」
「うん。みっちゃん、また今度ね。…じゃあ、バイバイ」と、海里は笑顔で満たちに手を振った。
 しかし、満の後ろ姿が人混みに消えると、その風景はぼやけてきた。海里の瞳は潤み、涙が零れていた。
(やだ。止まんないよ)と、ついにその場にしゃがみ込んでしまった。
 その頃、海斗は海里を探していた。そして、マンデーパークで彼女を見つけた。そのまま彼女に近づいた。
「お姉ちゃん、一緒に帰ろう」と、海斗は声をかけるが、海里はしゃがみ込んだまま、返事がなかった。
「お姉ちゃん?」と、もう一度、声をかけると「…海斗」と、海里は泣き顔のまま、こちらを向いた。
「どうしたの?」
「海斗、わたし…失恋しちゃった」と、言ってから、海里はついに泣きだしてしまった。
「お姉ちゃん」と、海斗はそっと手を差し出した。海里はその手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。
 そして、朝の光の中を海里は涙を拭いながら海斗と一緒に手を繋いで歩き出した。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み