三六

文字数 1,166文字


 体育館に残った俺と海斗は瑞希先生と海里の後ろ姿を見送った後、俺は海斗に聞いた。
「海斗、話ってなんだ?」と。実は結成式に集う前に海斗から話があると言われていた。
「あの日、僕は未来さんとお姉ちゃんが抱き合っているのを見てしまいました。できれば見たくありませんでした」
「か、海斗…」と、俺は、海斗に大変なところを見られてしまったと思った。
「…その時はショックでした」
「海斗、ごめんな。お前を…傷つけたみたいだな」
「いいえ、未来さん、謝らないで下さい。お姉ちゃんはいつも未来さんと喧嘩をしていたみたいですけど、お姉ちゃんは未来さんのことをとても頼りにしていると思います。そして、僕からもお姉ちゃんのことお願いしたいのです」
 そう言った海斗の瞳には涙が溢れていた。
「海斗、お前…」
「僕も未来さんのことを頼りにしています。…お姉ちゃんに青春のかけがえのない思い出を作ってあげて下さい」
 俺は海斗の肩をポンポンと叩きながら言った。
「海斗、お前の思い…しっかりと受け止めたよ」
「未来さん、ありがとう」と、海斗は泣き笑いの顔をこちらに向けた。
 俺は聞いていいのかどうか迷っていたが、海斗に聞いてみることにした。
「ところで、海里は太陽の伝説って本をとても大切にしているようだけど、海斗は何か知っているのかな?」
「あの本は、ママがお姉ちゃんにプレゼントした本ですが…」
「いや、俺には何かそれ以上のものを感じるのだが…たとえば、海里が六歳の時に何かこう忘れられないような大きな出来事があって、お母さんがプレゼントしたとか…うまく言えないけど、海里は今も何かを引きずっているのか?」
「…実は僕たちこれまで転校を繰り返してきました。パパの仕事の都合でいつ臨時の先生として移動するかわからない日々でした。僕は当たり前のように過ごしてきましたが、お姉ちゃんは誰とでもすぐに打ち解けて友達ができていました。確か六歳の時は、小学校で初めて仲のいい友達ができたと聞いていましたが、引っ越しで、すぐに別れてしまいました。そして、お姉ちゃんは何日も泣き続けたそうです。そこで、ママがあの本をプレゼントしたそうです」
「別れることのない親友。…そういうことだったのか」
「そうだと思います。…お姉ちゃんは、好きな相手には喧嘩をしていたこともありました」
「海斗には、それがわかるのか?」
「はい。お姉ちゃんは、ああみえて淋しがり屋だから、構ってほしいから、忘れてほしくないからだと思います」
 それを聞いた俺は、海里がとても可愛い奴と思えてきた。
「そうだったのか」
「…だから、お姉ちゃんは未来さんのこと大好きだと思いますよ」
 海斗がそう言った時、そう言えば知新館で海里が俺に言いかけたことは、もしかして…。
 俺がそう思ったところで、この場面は終了する。それは次の話しに進むためだった。



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