一三

文字数 396文字


 ルールルルルー。ルールルルルー。
 ルールルルルー。ルルルールルー。
 …長い髪が風になびいた。
 日も変わり、夜更けのベランダ。海里の瞳に、夜空に冴える月が映し出された。
 風の中で海里は過ぎ去った過去の声を聞いた。その響きが彼女を釘付けにしていた。
 天と地は逆になり、血は引いて凍りつき、空気は暑苦しくなって、心は乾いていた。
 針地獄の様を連想するような、そんな感じである。
 ―この時、海里のその心はスキャットをしていた。
 ジャズで意味のない音を発して歌うことをスキャットと云うが…。
 このテンションのリズムはジャズで、彼女はここで音の代わりにイメージを発して歌っていた。
 夜更けのスキャット。彼女の内は激しく騒いでいた。
 闇を走れば…。
 闇を走れば…。
 この騒ぎが終わったならば、夜明けの光が差し込んでくる。
 その時こそが。嗚呼、その時こそが新しい出発の時となる。
 それまでは、お休みなさい。



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