〇七
文字数 922文字
妙子…。
いつの間にか未来は心からそう呟くようになった。
生きていく中で初めて障害というものを知った未来は、知らず知らずのうちに、妙子に対して、心が激しく揺れ動く程のあつい思いを寄せるようになっていた。…彼自身、それが初恋であると知るのは、まだ後のことである。それからは、何かと理由をつけては彼女と付き合うようになっていた。
愛情をよせる。男と女の愛、恋におちて…。
すでにこの時から、未来は初めての恋におちていたのである。
それを機に、同居も等しい二人の甘い生活は始まっていた。
未来にとっては初めての恋だけど、妙子はもう自動車教習所で彼と初めて会った時に一目で恋をしていた。
…初めてあった時に一目で恋をした。
どうしてか。
人を好きになるのに理由はいらない。けれども愛…男と女の愛には、許される愛と許されない愛の二つがある。許される愛ならばもう言うまでもないだろうが、わざわざ言うだけのこともあって、二人の愛は許されない愛なのである。
その愛は、深まれば深まるほど、二人は大きく傷つくから…。
そして…。
夏の前に梅雨の季節。雨が降り継ぐ。
何もかもがうまくいかない。
モヤモヤしてばかりで、全然スッキリすることがない。
心がジメジメと濡れて、爽やかに乾かない。
そして、悪いことは続くものである。自分の大切なものが次から次へと壊れていく。
暗い一人の部屋、未来は窓に向かって淋しく呟く。それも瞳を閉じながら…。
新しい思い出をつくるため、俺は初めての恋におちた。
ああ、妙子…。
俺の初恋の人、妙子よ…。
未来の胸が張り裂けるような想い。それさえも、重なる現実は受け入れてはくれない。この二人を待っているのは、間違いなく「別れ」の二文字であった。想いが強いだけに、後に受ける心の傷はかなり大きなものになるだろう。
妙子、妙子…。
同時に自分の心の支えをも失うことになってしまう。それこそ堕落する一方だと…。未来には物事を悪い方にしか考えられなくなっていた。…これも、今までが円滑にいきすぎた付けなのだろうか。
このまま、この梅雨の季節を越えるのであろうか。
いや、できるはずがない。
…未来が、それに気付くのはいつの日のことだろうか。