二九
文字数 573文字
日曜日の夕暮れ。喫茶店・ミザールに一人の男性がやってきた。足も留めずその男性はある席まで歩いた。
「お兄ちゃん、ここよ」と、その妹と思われる人物が、その男性に向かって手を振っていた。
「伊都子、待たせたな」と、その男性は伊都子と呼ばれるその女性と向かい合って座った。
その男性は平田伊都子の兄の平田孝夫であった。
「お兄ちゃん、相談してみてくれた?」
「ああ。演劇部のインストラクターの件についてだったな」
「瑞希先生は了解してくれたわ。明後日の昼に学校へ行ったら会ってくれるそうよ」
「わかった。こちらも北川座長に了解を貰った。しっかりやってくれということだ」
「ありがとう、お兄ちゃん。じゃあ、チョコレートパフェ、おごってね」
「お前、ちゃっかりしてるな」
「うふふ。ここのチョコレートパフェ、おいしいのよ」
「はいはい。わかったよ」と、孝夫は、ウェートレスを呼び、チョコレートパフェとコーヒーを頼んだ。
平田孝夫。現在、京都芸術大学院に通う学生。そして、北川満が率いる劇団山越仲良座に所属している団員である。
この度、伊都子は北川瑞希と密かに相談していた。これまで演劇部にはインストラクターは存在していなかった。文化祭で劇をする話を知ったことで、専門の人に教わる必要があると思ったので、孝夫を瑞希に紹介するに至った。
それが、明後日の昼に実行されるのである。