第53話 未知なる仲間
文字数 3,640文字
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井の中の蛙大海を知らず―――
直面する圧倒的な差を目の前にしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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「こぉ"ぉ"ぉ"い!!」
「さぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
2020年9月5日土曜日。
東京での新人戦初戦。
審判の合図により、両選手一斉に動き出す。
恰幅の良い青年は、最短距離で距離を詰めてくるリーゼントの男に冷汗をかいていた。
(よりにもよって黒城 かよ……1回戦 で当たるとか運悪すぎん!? なんか気が立ってるしよぉ……どうすっかね? 様子見を……)
「正面突破 だぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「お、おぁあ!?ちょっと待って っ……」
「待つか鈍足 っ!! No.6……飛雷脚 っ!!」
地面がめり込むほどの踏み込みと共に、雷を纏った両脚が、落雷のような爆音を周囲に響かせていく。
元居た場所に残像を残した彼は、敵の道着を両手で掴み取り、突進する勢いそのままに、敵の体の右側に自分の左足を踏み込ませる。
そのまま右足を大きく前へと振り上げ、振り子のように振り落とし、敵の右足を刈り取っていく。
大外刈りを繰り出した黒城の勢いに飲まれる敵は、押し倒されるように背中を畳へと叩きつけられる。
「一本ッッッ!!」
「ふー……感謝 っしたっ!!」
「黒城先輩、乙 っす!! ほい、タオル」
「おう、すまねぇ春宮 ……アレ? 早乙女 監督は?」
「ああ、監督は……赤神 さんの試合を見に行ってんじゃないっすかね」
「赤神ぃ~? あんにゃろうの試合を見る必要あんのかぁ?」
「大有りだよ馬鹿 !! 一番 になんには、避けて通れねぇ壁だろがっ!! ちったぁ~調査 っとけってんだよ」
「お!! 噂をすれば……早乙女監督、赤神の野郎、どうだったすか!?」
「あぁ? そうだなぁ……あの野郎、この前の全国大会で見た時よりも進化してんぞ。別人レベルなんじゃねぇか? 会うたびに強くなってんなぁ~」
「現実 っすか? ……アイツ、凄 いからなぁ……しゃぁ!! 気合入って来たぜぇ!!」
自分で自分の頬を叩き、気合いを入れ直す黒城。
続く2回戦に向けて、体を冷やさないように動き回りながら、他の選手の試合を間近で観戦していた。
(全国制覇するって言った傍ら、こんな所で負けてちゃ~話にならねぇ……今日こそは赤神の野郎に勝ち越す……)
刻一刻と近づいて来る学校の取り壊し期限について心に浮かべながら、ライバル関係にある赤神との戦いをイメージトレーニングする黒城。
そんな時だ。
突如日本武道館の天井が爆破され、舞い上がる粉塵と共い、天から7人の集団が姿を現した。
他の選手達とは異なる、黒い柔道着を身に着けている集団。
彼らが演説を始めると、呆気に取られている黒城は、腹の奥底が煮え立つのを感じていた。
「りぼる……リヴォルツィオーネ? あぁん? 日本語以外使ってんじゃねぇよ、中二病かよ!! つーかだ!!頂点 に立つだとっ!? この俺を差し置いてか!? あ"ぁ"!? 急に湧いて出た奴らが出しゃばりやがってよぉ……!! あんな訳の理解 らねぇ集団に構ってる暇はねぇんだよ、こっちにはなぁ"ぁ"ぁ"!!」
「黒城先輩っ!? 今度は何やるんすかっ!?」
「春宮、無駄だよ。短気 な黒城は言う事聞かねぇんだからさ。ん~……よく理解 らねぇ状況だし、暇つぶしに酒でも飲酒 るかねぇ……うぇ~い、乾杯 ~」
「いやいやいや、酒飲んでる暇じゃないっすって!! 落ち着き過ぎっすよ!!」
「あぁ? こんな状況、アタシにとっては平穏 の朝飯前 なの!! アタシが乙女 ってた時は、派手に暴走 てたからねぇ。取り合えず 行方を見守ろうや」
黒衣の集団の演説に食い気味に噛みつくと、感情に身を任せるまま歩を進めていく。
リヴォルツィオーネを纏める銀髪の男、獅子皇 の元へと、落陽山の黒き稲妻は向かう。
またいつものように何かをやらかすであろう彼を、監督とマネージャーは、その場から見守っているのであった。
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「……長々と喋ってるから黙って聞いておけばぁー……頂 点 に 立 つ だ と ……? そりゃ~俺に勝つって意味で言ってんのかぁ~~? あ"ぁ"!?」
リヴォルツィオーネの目の前まで秒針1つほどの時間で辿り着いた黒城は、邂逅一番に喧嘩を吹っかける。
彼に続いてやって来た四龍の面々である、赤神、青桐 、白桜 も、リヴォルツィオーネに対面していく。
赤神に咎められる黒城。
話の流れで柔道で決着をつけることになると、怒り心頭の彼の胸中は穏やかなものではなかった。
(この野郎ども……!! 俺は赤神の野郎と柔道 りたかったのによぉっ!! 糞がっ!! 速攻 で決着 つけてやんよぉ!! 理解 らせてやんよ、こんちきしょうが!!)
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「あ、あへ、あへ、あへへへへへ~」
2020年9月7日月曜日放課後。
東京の新人戦を終えた黒城は、道場のど真ん中で大の字になって放心状態になっている。
襲来したリヴォルツィオーネの人間に、完膚なきまで叩きのめされた彼。
顔の筋肉が緩みまくっており、いつもの厳つくもキリっとした表情が台無しである。
「黒城先輩~いい加減ご尊顔 から切り替えてくんないっすか? 今日から仲間 探しが始まるんすよ」
「……春宮ぁ~……リヴォルツィオーネって連中、超 強 くねぇ? 俺勝てる?」
「いや無理っすね。アタイも色々探したんすけど……あんな連中、今まで見たことないっす。それに……ほら、高校生ランク……1位~18位まで、アイツらに独占 されてるっすよ」
「そうなんだよっ!! 俺2位だったのに、20位まで落ちてんだけどっ!? なんなんだよ意味理解 らねぇよぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!! 俺の頭でも理解 るように説明してよぉ"ぉ"ぉ"!!」
「ぎゃーぎゃー煩いんだよっ!! 工事現場かなんかかここはっ!?」
「早乙女監督っ!! 聞いて下さいよっ!!」
「却下 ね!!」
「聞いただけでそこまで言うっすか!?」
「あぁ~もう!! 時間がねぇんだよっ!! さっさと出発 すんぞっ!!」
「そんなっ!? ……あぁ? ……出発 ? どこに出発 するんすか」
「和歌山の柔道タワーだよ。春宮が調査 ったら、そこに化物がいるんだとよ。だよな?」
「そっすね。名前は酒吞童子 夜叉丸 って奴なんすけど……高校生ランク26位の化物っす」
「……春宮、それ、俺、知らない。なんで言ってくれなかったの?」
「頭馬鹿 には、なに言っても理解 らないっすからねっ!! あ、不覚 ……」
「てめぇ春宮ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! グギャァァァァァ!?」
「うるせぇぶっ殺すぞっ!! つーわけだから、オメェら2人はここで待機な。絶対に道場の外に出るなよ」
早乙女監督の言葉に首を傾げる2人。
今から車でも取りに向かうのだろうか。
大人しく道場のど真ん中で、体操座りのままボーとする黒城達。
監督が道場を出てから数分後、何処からともなく警報のような音が道場内に響き渡る。
それと同時に道場内の窓や入口が、鉄製の板で覆われていき、硬くロックされていく。
黒城達の理解が追い付く前に、道場は浮遊していったのだった。
狼狽える2人を落ち着かせるため、スピーカーから早乙女監督の豪快な声が聞こえてくる。
「あ!? おい、んだよこれっ!?」
「監督っ!! 監督っ!! アタイ達に説明っ!!」
『んだよいちいち面倒 くせぇなぁ!! 飛んでんだよ、この道場!! これでOK?』
「無理っすねっ!! 飛ぶ……飛ぶっ!? flyの飛ぶっ!?」
『YesYes~始めは陸路 で行こうと思ったんだけどよぉ~……流石に道幅きちぃって考えてな!! んじゃ空路 で行くしかないっしょってなったんだわ!!』
「いやいやいや!? 免許は!? 許可は!?」
『ごだごだ言ってんじゃねぇ!! 移動時間も練習時間にすんには、こうするしかねぇんだよ!! おめぇらが考えてる許可とか全部取ってっから気にすんなっ!! ガハハハッ!!』
「ぐくぅ……!! 黒城先輩も何か言って下さいよっ!!」
「うっひょ~気分高揚 だぜぇぇぇぇ!!」
「くそ、馬鹿 に聞いたアタイが馬鹿 だったっす!!」
『そいじゃぁ~和歌山の柔道タワーに向けて……出発 じゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!』
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「ん? 寒気がしたような? ……気のせいか? ならばいい!!」
井の中の蛙大海を知らず―――
直面する圧倒的な差を目の前にしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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「こぉ"ぉ"ぉ"い!!」
「さぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
2020年9月5日土曜日。
東京での新人戦初戦。
審判の合図により、両選手一斉に動き出す。
恰幅の良い青年は、最短距離で距離を詰めてくるリーゼントの男に冷汗をかいていた。
(よりにもよって
「
「お、おぁあ!?
「待つか
地面がめり込むほどの踏み込みと共に、雷を纏った両脚が、落雷のような爆音を周囲に響かせていく。
元居た場所に残像を残した彼は、敵の道着を両手で掴み取り、突進する勢いそのままに、敵の体の右側に自分の左足を踏み込ませる。
そのまま右足を大きく前へと振り上げ、振り子のように振り落とし、敵の右足を刈り取っていく。
大外刈りを繰り出した黒城の勢いに飲まれる敵は、押し倒されるように背中を畳へと叩きつけられる。
「一本ッッッ!!」
「ふー……
「黒城先輩、
「おう、すまねぇ
「ああ、監督は……
「赤神ぃ~? あんにゃろうの試合を見る必要あんのかぁ?」
「大有りだよ
「お!! 噂をすれば……早乙女監督、赤神の野郎、どうだったすか!?」
「あぁ? そうだなぁ……あの野郎、この前の全国大会で見た時よりも進化してんぞ。別人レベルなんじゃねぇか? 会うたびに強くなってんなぁ~」
「
自分で自分の頬を叩き、気合いを入れ直す黒城。
続く2回戦に向けて、体を冷やさないように動き回りながら、他の選手の試合を間近で観戦していた。
(全国制覇するって言った傍ら、こんな所で負けてちゃ~話にならねぇ……今日こそは赤神の野郎に勝ち越す……)
刻一刻と近づいて来る学校の取り壊し期限について心に浮かべながら、ライバル関係にある赤神との戦いをイメージトレーニングする黒城。
そんな時だ。
突如日本武道館の天井が爆破され、舞い上がる粉塵と共い、天から7人の集団が姿を現した。
他の選手達とは異なる、黒い柔道着を身に着けている集団。
彼らが演説を始めると、呆気に取られている黒城は、腹の奥底が煮え立つのを感じていた。
「りぼる……リヴォルツィオーネ? あぁん? 日本語以外使ってんじゃねぇよ、中二病かよ!! つーかだ!!
「黒城先輩っ!? 今度は何やるんすかっ!?」
「春宮、無駄だよ。
「いやいやいや、酒飲んでる暇じゃないっすって!! 落ち着き過ぎっすよ!!」
「あぁ? こんな状況、アタシにとっては
黒衣の集団の演説に食い気味に噛みつくと、感情に身を任せるまま歩を進めていく。
リヴォルツィオーネを纏める銀髪の男、
またいつものように何かをやらかすであろう彼を、監督とマネージャーは、その場から見守っているのであった。
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「……長々と喋ってるから黙って聞いておけばぁー……
リヴォルツィオーネの目の前まで秒針1つほどの時間で辿り着いた黒城は、邂逅一番に喧嘩を吹っかける。
彼に続いてやって来た四龍の面々である、赤神、
赤神に咎められる黒城。
話の流れで柔道で決着をつけることになると、怒り心頭の彼の胸中は穏やかなものではなかった。
(この野郎ども……!! 俺は赤神の野郎と
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「あ、あへ、あへ、あへへへへへ~」
2020年9月7日月曜日放課後。
東京の新人戦を終えた黒城は、道場のど真ん中で大の字になって放心状態になっている。
襲来したリヴォルツィオーネの人間に、完膚なきまで叩きのめされた彼。
顔の筋肉が緩みまくっており、いつもの厳つくもキリっとした表情が台無しである。
「黒城先輩~いい加減
「……春宮ぁ~……リヴォルツィオーネって連中、
「いや無理っすね。アタイも色々探したんすけど……あんな連中、今まで見たことないっす。それに……ほら、高校生ランク……1位~18位まで、アイツらに
「そうなんだよっ!! 俺2位だったのに、20位まで落ちてんだけどっ!? なんなんだよ意味
「ぎゃーぎゃー煩いんだよっ!! 工事現場かなんかかここはっ!?」
「早乙女監督っ!! 聞いて下さいよっ!!」
「
「聞いただけでそこまで言うっすか!?」
「あぁ~もう!! 時間がねぇんだよっ!! さっさと
「そんなっ!? ……あぁ? ……
「和歌山の柔道タワーだよ。春宮が
「そっすね。名前は
「……春宮、それ、俺、知らない。なんで言ってくれなかったの?」
「頭
「てめぇ春宮ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! グギャァァァァァ!?」
「うるせぇぶっ殺すぞっ!! つーわけだから、オメェら2人はここで待機な。絶対に道場の外に出るなよ」
早乙女監督の言葉に首を傾げる2人。
今から車でも取りに向かうのだろうか。
大人しく道場のど真ん中で、体操座りのままボーとする黒城達。
監督が道場を出てから数分後、何処からともなく警報のような音が道場内に響き渡る。
それと同時に道場内の窓や入口が、鉄製の板で覆われていき、硬くロックされていく。
黒城達の理解が追い付く前に、道場は浮遊していったのだった。
狼狽える2人を落ち着かせるため、スピーカーから早乙女監督の豪快な声が聞こえてくる。
「あ!? おい、んだよこれっ!?」
「監督っ!! 監督っ!! アタイ達に説明っ!!」
『んだよいちいち
「無理っすねっ!! 飛ぶ……飛ぶっ!? flyの飛ぶっ!?」
『YesYes~始めは
「いやいやいや!? 免許は!? 許可は!?」
『ごだごだ言ってんじゃねぇ!! 移動時間も練習時間にすんには、こうするしかねぇんだよ!! おめぇらが考えてる許可とか全部取ってっから気にすんなっ!! ガハハハッ!!』
「ぐくぅ……!! 黒城先輩も何か言って下さいよっ!!」
「うっひょ~
「くそ、
『そいじゃぁ~和歌山の柔道タワーに向けて……
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「ん? 寒気がしたような? ……気のせいか? ならばいい!!」